昨年11月から始まったアストロズのサイン盗み騒動が、スプリングトレーニングに入って収まるどころかさらに大きくなっている。アストロズは球団として正式に謝罪したが、それが不評で火に油を注ぎ、他球団選手からの批判の集中砲火が連日続いている。

しかし釈然としないのは、マンフレッド・コミッショナーとMLBの対応だ。今年1月にコミッショナーが公表したアストロズに関する調査報告書には「サイン盗みは一部の選手主導で行われた」と明記され、フロントの関与はなかったと結論づけているが、米経済紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が2月7日付で、アストロズのサイン盗みにはフロント職員も積極的にかかわっていたと複数の関係者の証言で明らかにしている。フロントの職員が構築した相手捕手のサイン解読システムを「コード・ブレーカー(暗号解読)」、サイン盗みの手法を「ダーク・アート(悪の作品)」と球団内で隠語で呼んでいたこと、サイン盗みは知らなかったと公言していたジェフ・ルーノー前GMも実際は知っていたことを疑わせる証拠があること、コミッショナーが調査中にルーノー前GMにメールを送っていたことなどが記事で暴かれていた。

完全に相反する報道が出たことは報告書の信ぴょう性を揺るがすことになるため、MLB側には誠実な対応が求められる。だがNBCスポーツ電子版によると、コミッショナーは16日の会見で「回りくどく、非論理的な説明に終始した」という。会見にはWSJの記事を書いた記者も出席しており、コミッショナーはその記者に対して「おめでとう。私が球団幹部に送ったメールを入手したそうで。素晴らしい取材ですね」と嫌みを言ったそうだ。さすがにこれは大組織のトップの態度としてはあまりにひどいと、米メディアでも反発が広がっている。

コミッショナーが、フロントの関与をかたくなに無かったことにしようとしている理由は何だろうか。うがった見方かもしれないが、コミッショナーは球団経営陣の投票によって就任や任期が決まるため、球団フロントを守ることは自身の地位の安定にもつながるといったところか。いずれにせよ、サイン盗みスキャンダルに関してはまだグレーな部分が多過ぎ、多くの人が疑心暗鬼のままだ。これではファンも離れてしまうのではないかと、今季の行方を案じてしまう。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)