今季のレギュラーシーズンが終わった。ジャッジ、プホルス、大谷翔平と歴史的な記録も多く生まれ、労使交渉で開幕が遅れたことも忘れるくらい印象深いシーズンになった。

MLBでは毎年、さまざまな流行も生まれる。今季、筆者が気になったのは「口ひげブーム」だった。このブームは米国で数年前から起こっているのだが、それが野球界にも波及し、特に今季は口ヒゲ選手が目立った活躍をするケースが多かった。

例えばア・リーグのサイ・ヤング賞争いで有力候補の1人に挙げられているホワイトソックスの先発右腕ディラン・シース(26)。ヤンキースで打率3割を打ち一時は本塁打を量産し続けたマット・カーペンター内野手(36)や、新人王の有力候補とされるブレーブスの先発右腕スペンサー・ストライダー(23)もそうだ。

口ヒゲ選手はそれぞれ、そのヒゲにこだわりを持っているようだ。シースは「僕のは真ん中が薄いけど、カーペンターのは濃くて整っていていいなと思う。他の選手のと比べたりはしないけど、自分と違う部分を見つけて、あれいいなと思ったりはする」と話していた。元巨人でカージナルスの先発右腕マイルズ・マイコラス(34)は、巨人時代にそっていた口ヒゲを18年にメジャー復帰を果たしてから復活させているが「口ヒゲほど野球選手のルックスにぴったりはまるものはない」と力説するほどだ。

米国では口ヒゲはヒゲの中でも別格で、ヤンキースにはヒゲ禁止の球団ルールがあるが口ヒゲだけは認められていることからもそれは明白。北米には口ヒゲ専門家と呼ばれる研究者も存在し、MLB公式サイトによるとトロント大学の精神医学教授アラン・ピターキン博士が「マスタッシュ(口ヒゲ)専門家」として知られている1人だという。

そうした専門家によると、今の米国の口ヒゲブームはコロナ禍の影響が強いようだ。自粛生活に疲れて気分転換をしたくなる、人と会う機会が減ったことがきっかけで生やすなどの理由だそうだ。しかしMLBでは、生やしている時といない時を比較すると生やしている時の方が成績が良いというデータが出ているそうで、それがブームに火を付けたとみられている。ピターキン博士は「口ヒゲがあると強そうに見える。強く見せることで、戦闘力も上がる」と、自己暗示的な効果もあるのではと分析していた。

思い返すと、エンゼルス大谷翔平投手(28)も一時口ヒゲを伸ばしていた時期があった。シーズン序盤の頃でごく短期間だったが、うっすら生えてきた頃にファンの間で話題になっていた。大谷も、もしかしたらブームに乗ろうとしていたのかもしれない。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「水次祥子のMLBなう」)