2019年のメジャーリーグは、ワシントン・ナショナルズが、ワールドシリーズでアストロズを4勝3敗で下し、初の世界一の座に就きました。負ければ終わりのワイルドカードから勝ち上がり、最後は敵地ヒューストンで4戦全勝。リードされても、粘り強く、何度も逆転した戦いぶりは、米国ファンの中でも好感度抜群でした。

今季のナショナルズは、オフに大砲ブライス・ハーバーがFA(フリーエージェント)でフィリーズに移籍したこともあり、前評判は本命組に次ぐ第2グループあたりと考えられていました。昨季終了直後、米国内のあるブックメーカーの予想オッズによると、アストロズ、レッドソックスが6倍でトップ。以下、ドジャース、ヤンキースが7倍で3位タイ、さらにカブス、インディアンスと続き、ナショナルズは16倍で9位タイにランクされていました。

開幕後は、相次ぐ故障者に見舞われたこともあり、苦戦が続き、5月23日終了時点で19勝31敗、最大借金12。首位に10ゲーム差をつけられていました。その結果、他のオッズメーカーが世界一の可能性を0・1%と下方修正するほどの低迷ぶりでした。つまり、倍率は1000倍。100円が10万円になるオッズで、競馬で言えば“超万馬券”の大穴まで評価は下がっていました。

暴落したオッズは、当時、ナショナルズのチーム内でも広く知られていました。それでも、彼らは意に介することなく、勝利にこだわり続けました。ワールドシリーズ中、デーブ・マルチネス監督は、笑いながら0・1%からの反撃を振り返っていました。

「もし、僕が賭ける人だったらともかく、そうじゃない。そういう数字は、まったく信用していない。信じているのは、しっかり練習すること、やるべきことを継続すること。我々がこの場所にいられるのは、選手が1度もあきらめなかったからだ」。

実際、6月以降はマックス・シャーザー、スティーブン・ストラスバーグの先発2枚看板の活躍に加え、故障者らも復帰。3番レンドン、21歳の若き4番ソトが大ブレークするなど、投打の歯車がかみ合い始め、着々と白星を重ねました。公式戦の最後は、11戦10勝と驚異的なラストスパートでワイルドカードの切符をつかみ取り、そのままの勢いでポストシーズン(PS)でも勝ち進んでいきました。そのPSでは、救援陣に不安を抱えながらも、メジャー3位タイの116盗塁を記録した機動力、堅い守備力で失点を食い止め、頂点まで上り詰めました。

たとえ、わずかでも可能性がある限り、あきらめなければ勝てることを、今季のナショナルズは証明しました。

打球方向、配球など、細部にいたるまで確率を重視するデータ偏重野球が広がる中、数字を跳ね返して、0・1%の確率から世界一となった事実が、より意義深いような気がします。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)