エンゼルス大谷翔平投手(28)とアーロン・ジャッジ外野手(30=ヤンキース)とのMVP争いが激化しています。米メディアからは「史上最高レベルのMVP争い」との声も上がるほど。その理由として、MVP選考基準における日米の違いにあるからだと思います。

MVPは「Most Valuable Player」の略。チームの優勝、または優勝争いに貢献した選手を意味します。しかし、日本のプロ野球と違って、重視するのはチームの優勝か個人の成績なのか、全米野球記者協会の投票記者たちに曖昧なところがあります。

1987年のナ・リーグは、東地区最下位のカブスからアンドレ・ドーソン外野手がMVPに選出されました。ところが、「彼がチームにいても最下位なのに、なぜ?」との異論が噴出しました。それでも、昨年の大谷のように、優勝争いとは関係ないチームから選ばれる傾向にあります。今年も、投打二刀流にさらに磨きのかかった大谷は、ジャッジに勝るとも劣らぬインパクトがあります。MVP論争の背景には、チーム成績を度外視できるほど、成績や記録が評価されているからだと思います。

それでも、今年は冷静に見て、ジャッジが有利でしょう。最大の理由は2つあります。<1>シーズン前半戦に記録的なペナントレース独走に貢献、<2>ロジャー・マリスのア・リーグ年間最多記録を更新するペースで本塁打量産、の2点です。ほかにも、地区優勝争いの重圧の中で好成績を残し、リーダーシップを発揮。また、本塁打と打点でメジャー2冠を独走する打撃だけでなく、走塁、守備でも貢献しています。

一方、大谷はベーブ・ルース以来104年ぶりにシーズン2桁勝利&2桁本塁打に到達。また、すでにクリアした打席に加え、投球回でも近代野球史上初のダブル規定到達となれば、強烈なインパクトを与えることになります。まさに、誰も成し遂げることが出来ない偉業になります。

近年、MVPの決め手になる数値は、単純に投手の勝利数や打者の本塁打数などではありません。投票記者たちが重視するのは、投手なら投球回数や防御率、WHIP(1投球回あたりの許走者)など。打者なら、OPS(出塁率+長打率)といった専門的な指標が重要になっています。

その中でも、最新の野球統計データ(セイバーメトリクス)に基づく総合指標の「WAR」がカギを握ります。ファングラフのfWARでは9月8日現在、ジャッジの9.1に対し、大谷は7.9。これだけでも、ジャッジが多少有利と言えます。

また過去の歴史からも、両者が互角となった場合、ヤンキースの選手が有利です。なぜなら、本拠地ニューヨークを中心とした米東部に多くのメディアが集まり、特にヤンキースは人気が高く、誰からも注目されるチームだからです。大谷はその点で、昨年MVP争いをしたウラジーミル・ゲレロ内野手(23=ブルージェイズ)とは異なります。本拠地はカナダのトロントにあり、米国のメディアからあまり注目されないチームでした。

最終的に、投票記者たちはチームの優勝に貢献か、それとも個人の成績や記録を重視するかで意見が真っ二つに分かれると思います。そういう意味でも、両要素を持つジャッジが有利とみます。

結論として、全米野球記者協会選出のMVPはチームの優勝に貢献した選手、米メディア選出のプレーヤー・オブ・ザ・イヤー(最優秀選手)はチーム成績に関係なく、個人成績だけで選ばれるのが理想です。そう考えると、ジャッジがMVP、大谷が最優秀選手にふさわしく、ジャッジが6対4ぐらいで有利でしょうか。それでも、一ファン心理としては、大谷の2年連続MVPを願わずにはいられません。(大リーグ研究家・福島良一)(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)

本塁打を放つアーロン・ジャッジ(2022年8月30日撮影)
本塁打を放つアーロン・ジャッジ(2022年8月30日撮影)