強打者をそろえている今季のドジャースですが、走力を生かした「ゴーゴー・ベースボール」の伝統があったのは、ご存じでしょうか。

ドジャースの春季キャンプはバッテリー、リハビリ組に加えて、野手組が合流し、本格的にスタートしました。キャンプイン早々から大谷翔平投手(29)がフリー打撃で特大弾をかっ飛ばし、連日のように大きな話題となっています。

その一方で、今季は打者専念で「腕が使えなければ足を使う」と言わんばかりに、徹底的な走塁改革で盗塁増も目指しています。21年に大谷は自己最多の26盗塁を記録しましたが、成功率は72%。22年は11盗塁で成功率55%。昨年は20盗塁で成功率77%でした。

ロン・レネキーGM特別補佐は「ショウヘイは今年もっと走りたいと思っている。彼のスピードをより効果的に使えるように、盗塁なら75~80%で成功する必要がある。試合の大事な場面で盗塁できれば、多くの勝利をもたらすことができる」とコメント。大谷により高い成功率を求めています。

スピードと言えば、ドジャースのお家芸でもあります。1962年、ロサンゼルスに新球場ドジャースタジアムがオープン。投手有利な本拠地球場の特性を生かすため、投手力中心の機動力野球に方針転換しました。それによって、63年はワールドシリーズで宿敵ヤンキースにストレート勝ち。後に「ドジャースの戦法」の著者などで知られるアル・キャンパニス以下、スカウト陣のヤンキース調査網によるデータ分析の勝利と言われました。

65年はのちに殿堂入りする先発2枚看板、サンディ・コーファックスとドン・ドライスデールのもと、62年当時メジャー記録の104盗塁したモーリー・ウイルスらが機動力野球を展開。ワールドシリーズで豪打を誇るツインズを4勝3敗で下して世界一。投手力とスピードで固めた、いわゆる「ゴーゴー・ベースボール」が一世を風靡(ふうび)しました。

何しろ、当時のドジャースは長打力がなく、一死一塁で4番打者が送りバント。5番打者のタイムリーで1点を取り、そのまま逃げ切ることもありました。これが日本に伝わり、一時はプロ野球各球団がまねしたこともあります。しかし、当時のウォルト・オルストン監督は「仕方なくやっていたのに…」と苦笑いしていました。

最近のドジャースは、打てないチームでなくなりました。むしろ、昨年はナ・リーグ2位の249本塁打を放ち、不動の1番打者ムーキー・ベッツを筆頭に3人が30本塁打以上、また球団新記録の4人が100打点以上をマーク。逆に、同11位の105盗塁と本来の持ち味が無くなりつつあります。

ペナントレースで優勝できても、さらに大事なプレーオフを勝ち抜き、ワールドシリーズを制覇するには、パワーだけでなくスピードも重要になって来ます。11年連続でポストシーズン出場しながら1度しか世界一になれていないのも、そこに1つの原因があるかも知れません。

18年レッドソックス時代にベッツは30本塁打30盗塁を達成。昨年フレディ・フリーマンは決して俊足でありませんが23盗塁で失敗がわずか1つ。昨年エンゼルス時代の大谷は、史上8人目の複数回40本塁打&20盗塁を記録しました。こうした野球の2大要素であるパワーとスピードを兼ね備えた選手が、上位打線に連なるチームは間違いなく面白いです。ドジャースの伝統的な機動力野球、「ゴーゴー・ベースボール」復活にも期待したいと思います。

【大リーグ研究家・福島良一】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)

ベースランニングをするドジャース大谷(撮影・菅敏)
ベースランニングをするドジャース大谷(撮影・菅敏)