マリナーズ菊池雄星投手(28)がメジャー1年目の前半戦を振り返った。花巻東時代から憧れ続け、日本での開幕戦でデビュー。4勝6敗で折り返したここまでの戦い、実感した日米の違い、そして引退したイチロー氏(45=マ軍会長付特別補佐兼インストラクター)との「夢のような時間」などを、2回にわたってお届けする。【取材・構成=四竈衛】

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19試合に先発し、4勝6敗、防御率4・94。数字だけ見れば、決して満足できるものではない。ただ、前半戦を終えた菊池の表情に、ネガティブな陰りはみじんもなかった。

「あっという間ですね。毎日必死にやっていたら、もう半分終わったという感じです。打者のタイプ、野球の考え方が違うので、努力の方向がまず違う。日本でやってきたこと、打者をどう抑えるかという努力の仕方を変えざるを得ない、と感じてます」

先発として完投を目指していた西武時代とはアプローチを変えた。野球のスタイル、パワー、技術も違う。

「当然、中4日もありますけど、バントをまずしない、盗塁もほとんどない。1~9番までどこからでも本塁打が出る。ということは、攻め方も違う。どこからでも1発が出るということは、高めに投げる練習をしないといけない。こちらでは、当然投げないといけないというところも変わりましたね」

開幕直後は援護にも恵まれず、初勝利を手にしたのは6試合目の4月20日。その後、安定した投球を続けていたが、5月25日からの5戦は白星なしの4敗。壁にぶつかった。

「普通に投球をして自分の力を出せば、ある程度試合をつくれるというのは、すごく自信を深めたこともあるんですがね…。その普通を出すことが、いかに難しいかを感じました。ごまかしが利かないんです」

3月21日のデビュー戦(東京ドーム)では、右翼のイチロー氏を背に登板。それが一緒にプレーする最初で最後の試合となった。

「1試合しかともにプレーすることはできなかったですけど、やっぱり忘れられないですし、全てが美しいものでした。当然、格好いいんですけど、全部の振る舞い、所作が美しいんですよね。それに触れられたというのは、すごい財産だと思います」

試合後こそ号泣したものの、イチロー氏がマ軍に残ったことで「夢のような時間」が激増した。

「引退されてからの方が、話をさせていただく機会は増えました。本当に勉強になることばかりで、時がたてばたつほど、一緒のチームでよかったなと思うことばかりです。ほぼ毎日一緒にトレーニングさせてもらって話をするので…。毎日、ワクワクしますし、背筋が伸びる感じ。毎日イチローさんと話ができる日本人も僕だけだなと」

約2カ月前から、今でもイチロー氏が欠かすことのない初動負荷マシンを利用したトレーニングの“門下生”となった。大先輩からの「使いたかったら来てね」との言葉に「教えてください」と志願。自身のウエートトレと並行して柔軟性、可動域、疲労回復などに主眼に置く合同トレが日課となった。

「僕は未完成の状態でアメリカに来たと思っているので、これまでの(日本人)メジャーリーガーの方に比べても、1軍で投げている期間も短く、勝ち星も少ない。まだまだ勉強しなきゃいけないというのは、当然思っています。そういう中で、イチローさんと野球の話ができる、野球の考え方を勉強できるというのは財産です」

一方で結果を求め、残していく姿勢に変わりはない。4月26日には1イニング限定の「ショート・スタート」を経験。来年以降を見据えた育成方針の下で後半戦もマウンドに向かう。

「監督からも『今年は教育というか、1年間ローテーションで回すと決めているし、その中でケガをしないで32試合投げること。そして来年、万全な状態でスタートすることが今年のゴールだ』という話をしていただいています。そこはありがたいですし、僕自身も必要だと思うことをトライできる年。後半戦も、今までやってないようなことをやることは増えてくるんじゃないかなと思います」

ケガなく今季を投げきり、来季は先発ローテの軸としてポストシーズンを戦い抜く-。菊池の視線は、開幕前からブレていない。(つづく)