19年前の2001年5月10日(日本時間同11日)、マリナーズ佐々木主浩投手が観客からレーザー光線を浴びる事件が起こった。大魔神はそんな悪質な行為にも負けず16セーブ目を挙げた。メジャー2年目の同年は45セーブを挙げ地区優勝に貢献した。メジャーで4年プレーした佐々木は04年に古巣横浜に復帰し05年に引退。日米通算381セーブを挙げた。

【復刻記事】

シアトル・マリナーズ佐々木主浩投手(33)が、敵地観客の陰湿な妨害行為にもめげずメジャートップ独走の16セーブ目を挙げた。3点リードで迎えたレッドソックス戦9回裏に登板。バックネット裏の観客からレーザー光線を浴びせられたが、自ら抗議してやめさせ、無死二塁のピンチを無失点で切り抜けた。

さすがの佐々木でも、動揺しないはずがなかった。3点リードの9回裏無死。先頭のビシェットに二塁打を浴び、続くハティバーグへの初球が高めに外れた直後だった。目の前に赤い光がちらついているのに、気が付いた。光線は口、鼻、左目付近に当たった。発信元は、ネット裏2列目に陣取っていた米国人中年男性2人。佐々木はレーザーペンの光線による妨害行為と察知。すかさずプレートを外し、球審に異変を告げた。佐々木がネット裏を指さし、二塁塁審も気が付いたことで男性2人はすぐに妨害を中止。試合は無事に続行されたが、陰湿ないやがらせはショックだった。

佐々木 最初は、カメラのフラッシュかと思ったけど、ネット裏の2人がレーザーを向けているのが分かった。相手の顔もよく見えたし、やっぱり怖い感じがしました。

ニューヨークのヤンキースと並び、歴史が古く熱狂的なファンが多いことで知られるボストン。現在、東地区でし烈な首位争いを繰り広げており、この日もスタンドは満員だった。ところが試合は審判の判定をめぐってレ軍ウイリアムズ監督、バリテック捕手が退場処分を受けた上、レ軍の負けムード。スタンドにはレ軍ファンのフラストレーションが充満していた。

そんなイライラの矛先が、試合を締めくくるマ軍のストッパーに向けられた。佐々木の集中力をそごうと、投げる瞬間に両手を上げて振るファンもいた。スタンドが近いため、ブルペンでユニホームをつかまれたりすることは日常茶飯事だ。しかし、レーザー光線はあまりに卑劣。それでも佐々木は動揺を面に出すどころか、さらにテンションを高めて後続の打者に向かっていった。

佐々木 一瞬、キレそうになりました。米国で、しかも野球好きの多いボストンでこんなことが起こるなんて、非常に残念です。ボクたち選手は、みんな野球を一生懸命やってるのにね。ただ、あれで絶対に点をやらない、って気合が入りました。絶対に抑えるつもりでした。

無死二塁の場面から遊ゴロ、遊飛、最後は右飛。メジャートップ独走の16セーブ目のウイニングボールをイチローから受け取ると、ようやく笑顔がのぞいた。

体調は万全ではなかった。前夜、いつもより多めの10時間睡眠をとったせいか、寝違えて右首を痛めた。それでも昼食にはセーブを挙げた前日と同じレストランで、全く同じパスタを注文。縁起を担ぐ一方で、首にはハリ治療を施して試合に臨んでいた。

4月10日のアスレチックス戦(オークランド)では、右翼イチローにコインと氷が投げ込まれた。だが、イチローも、この日の佐々木も、妨害行為にひるむそぶりは見せなかった。思わぬアクシデントが、図らずも佐々木のトップメジャーとしてのたくましさを証明した。

<犯人身柄拘束>

佐々木にレーザー光線を照射した「犯人」が身柄を確保されたと、11日付のシアトル・タイムズが伝えた。佐々木からアピールを受けた審判団は場内の警備員を呼び、警備員が指示に従ってその男を捕まえたという。「犯人」は、プロフットボールリーグで10日付で消滅が決定したXFLのファンの可能性が強いとしている。

<日本では>

97年8月5日に大阪ドームで行われた巨人-ヤクルト戦で初めて表面化し騒動に発展した。客席からマウンド上のヤクルト吉井が赤い光線を右目に受け、捕手のサインが見えにくくなるなどし3回途中での降板を余儀なくされた。ヤクルト球団は9月下旬に、プレーを妨害した威力業務妨害で大阪府警に告訴状を提出。同府警は受理し、吉井から参考人聴取するなど捜査に乗り出した。しかし犯人を特定することはできなかった。前後して甲子園で巨人選手、阪神川尻らが被害を受けた。球界首脳は警備強化、アナウンスなどでの防止徹底に乗り出した。

<米国では>

レ軍の本拠フェンウェイパークでは、過去にもレーザー光線照射騒動がある。98年6月7日メッツ戦の5回裏、レ軍攻撃中に一塁側内野席からメ軍野手に対して照射された。この時は一塁塁審が気付きタイムをかけ、警備員を呼び注意。大リーグでレーザー騒動はあまり例がないが、この時、メ軍マウンドにいたのも日本人投手の吉井だった。また99年にはパドレスの契約カメラマンが選手から照射の被害を受け、告訴した例がある。

<レーザーペン>

通常はスライドや黒板などを赤い点で指し示すために使われる。ペンライトの一種で長さは約7センチ。光源のゲージを絞れば500メートル先まで照射することができるものもある。体には影響がないレベルに設定されているが、目に有害とされ、網膜がやけど状になるなどの後遺症例が多数報告されている。規制に乗り出した政府は、今年1月31日に安全法令を施行。電器店やアーミーショップなどで5000円程度で購入できるが、日本工業規格(JIS)などに準じた国の安全基準を満たさないものは一切製造・販売できないことになった。

※記録や表記は当時のもの