交渉期限を目前にしても、情報が交錯していた菅野の移籍交渉の背景に、コロナ禍の影響があったことは言うまでもない。昨季の公式戦が無観客での60試合に短縮され、大幅な収益減で緊縮財政を強いられるMLBの各球団が、譲渡金を含む高額と見込まれる投資に二の足を踏んだため、交渉が難航したことは想像に難くない。

ただ、米国の各メディアが金銭面での不足を報じた一方、菅野本人は決して年俸に固執していたわけではない。菅野にとって、メジャーは学生時代からの夢であり、目標であり続けてきた。日本ハムからのドラフト指名を拒否し、1年浪人してまで巨人入りしたように、中途半端な気持ちでポスティング申請するような性格でもない。ポストシーズンを狙える力があり、そのために必要な戦力として「誠意」を示されれば、たとえ市場評価額を下回ったとしても、菅野は納得する。そういう選手であることが正しく周知されていれば、他にも手を挙げる球団はあったかもしれない。

今回の交渉過程では、巨人が4年契約ながら毎年オプトアウト(契約見直し)できるオファーを出したとの情報が、米メディアを通して一斉に流れた。2000年オフ、イチローが初めてポスティングで移籍して以来、過去に日本球団の条件が伝え漏れたこともなければ、メジャーと比較されたケースは記憶にない。コロナ禍の影響で対面交渉の機会が限定されるため、情報だけでなく、双方の真意が伝わりにくく、関係者がメディアやSNSを通して、駆け引きの一端として、意図的に「投石」している可能性も否定できない。17年オフ、大谷(エンゼルス)が7球団と面接したように、直接交渉が実現していれば、おそらくスムーズに進行したに違いない。

現時点で、米国内は依然としてすさまじい勢いで感染拡大が続いており、キャンプや公式戦の実施も不透明な状況。金銭などの条件以上に、プレーする環境の不安が大きいだけに、菅野が悩んだのも当然と言える。【MLB担当=四竈衛】