【ピオリア(米アリゾナ州)21日(日本時間22日)=斎藤庸裕】エンゼルス大谷翔平投手(26)が、メジャーでは初の“リアル二刀流”で存在感を存分に発揮した。「1番投手」でパドレス戦に先発。打っては第1打席で中前打を放つなど2打数2安打。投げては4回2安打1失点で5奪三振。3回にはメジャー自己最速を更新する101・9マイル(約164キロ)を計測した。コンディションを考慮しながら、固定観念に縛られないマドン監督と対話を重ねたことで実現したリアル二刀流。オープン戦の打率は6割3分6厘まで上げ、メジャー自己最速もマーク。大谷が、いよいよ乗ってきた。

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歯車がかみ合い、大谷がメジャーでリアル二刀流の扉を開けた。先発として左翼後方のブルペンで投球練習を終了して約7分後。誰よりも早く、1回表のまっさらな打席に立った。「どちらかと言うとピッチャーをやりながらっていうよりも、1番バッターとしてどういう役割が出来るかの方が大事」。チームへの貢献を最優先し、第1打席の中前打からスタートを切った。先発マウンドに上がった時点で土でよごれていた左の尻と膝下が、二刀流の証し。打席で、ベース上で、そしてマウンドで、フル回転した。

温めていた起用プランがようやく実現した。試合前、マドン監督は「1~2週間くらい、(大谷と)話し合ってきた」と明かした。敵地での試合のため打席が先。ブルペン投球から直接マウンドに向かえない難しさもあったが「彼に前もって理解してもらい、感覚も確かめたかった」。重視する対話を重ね、態勢を整えた。ナ・リーグ主催試合でもオープン戦なら使えるDH(指名打者)枠を、選択せずに“解除”。19年の監督就任後、リアル二刀流を「やらない理由はない」と言い、30年前から二刀流選手の起用を夢描いてきた知将が、試運転としてかじを切った。

もっとも、それを可能にさせたのは大谷だった。「1年目、2年目、打者で多く出て、ある程度、成績を残して評価されているのかなと感じますし、だったら投げるときに打った方がいいよね、っていうところかなと思います」。投打どちらか片方が頓挫すれば当然、実現しないプラン。オープン戦では打者で打率6割3分6厘。投手としても常に細かくコンディションをチェックしてきた。投打でバランスがとれた状態で臨めた今季3度目の登板が、絶好のタイミングとなった。

右肘のリハビリを行っていた一昨年は打者に専念。昨季は二刀流で開幕しながら2度目の登板後に右前腕を故障した。「2、3年間、そういう活躍ができなかったのは、期待されてただけにふがいないなという気持ちはもちろんあったので、頑張りたい」。メジャー4年目で二刀流として再起をかける-。周囲の戦略、大谷の能力とぶれない気持ちの強さの調和で、再び道が開いた。

◆策士マドン監督の常識破りの作戦

▽満塁敬遠 レイズ時代の08年。レンジャーズ戦で4点リードの9回2死満塁で、主砲ハミルトンを敬遠。1点を献上したが、後続を抑えて逃げ切り勝ち。

▽四球攻め カブス時代の16年。ナショナルズの主砲ハーパーに対し、3四球3敬遠1死球。「0打数7出塁」ながら、決定打を許さないことで勝利。4連戦の19打席で13四球(4敬遠)と徹底的に勝負を避けた結果、チームは4連勝。

▽外野手4人 エンゼルスのベンチコーチだった02年、ワールドシリーズで対決したジャイアンツの主砲ボンズ対策として、外野手4人を提案。カブス監督時代には自ら実施した。

▽救援投手2人を交互に起用 18年6月のブルワーズ戦で、右腕シシェック、左腕ダンシングを、相手打者に合わせて交互に起用。1人に投げると左翼に回り、再びマウンドへ向かう奇策で快勝。

▽投手8番策 カブス監督時代に実施。「9番投手」の場合、8番打者が敬遠されるケースが多いため。