【オークランド(米カリフォルニア州)9日(日本時間10日)=四竈衛】エンゼルス大谷翔平投手(28)が1918年のベーブ・ルース以来史上2人目、104年ぶりに「2桁勝利&2桁本塁打」の大偉業を達成した。3日に7敗目を喫したアスレチックスとの連戦に、「2番投手兼DH」で出場。3回に打球が左足付近を直撃するアクシデントを乗り越え、6回を4安打無失点。2桁王手からのべ7度目の挑戦で、メジャーで自身初のシーズン10勝目(7敗)を挙げた。打席では4-0の7回先頭で、左投手のスライダーを引っ張り、右翼席へライナーで突き刺すダメ押しの25号ソロ。イチローを抜き、日本人歴代2位の118本塁打目で、日本人通算700号も飾った。登板試合では今季2発目。2安打1打点と「二刀流」全開で節目の記録を刻んだ。

    ◇    ◇    ◇

1世紀以上、だれも届かなかった領域に足を踏み入れても、周囲が拍子抜けするほど、いつもの大谷だった。「光栄なことだとはもちろん思いますけど、シーズン中とか、自分の今の数字がどういう印象なのかとかは、あまり分からない。終わった後に、どんなシーズンだったのかを振り返られればいいと思います」。大谷にすれば、9勝の次は10勝、24号の後は25号。ルースと比較される実感もなければ、偉業さえ、人ごとのようだった。

1918年(大7)の日本にはプロ野球もなく、第4回全国中等学校優勝野球大会(現全国高校野球選手権)が「米騒動」で中止になるなど、野球の黎明(れいめい)期だった。そんな時代に、米国ではルースが「二刀流」として2桁本塁打&2桁勝利を達成した。投手は形状が異なる球を投げ、打者は重く飛ばない球をこん棒のようなバットで振り抜く時代だった。投手の球種は基本的に、平均130キロ台とも推測される速球とカーブだけ。それでも、ルースの能力は群を抜いていた。試合後、洋酒のグラスを手に葉巻をくゆらせていても、グラウンドでは快投を演じ、アーチを連発。娯楽の少ない時代のスーパースターとしてファンを魅了した。

一方で、過去1世紀以上、「二刀流」の発想自体が封印されてきた。その間、用具の質や投打の技術は格段に進歩した。オフから肉体を鍛え、幾多のデータを基に科学的なトレーニングを進めることが当然となった。時速160キロ前後の速球に多彩な変化球を交える投手が激増し、細かいデータを重視。その結果、選手の役割の分業化が進み、より高度化した。だが、大谷はスペシャリスト育成の流れに逆らうかのように、メジャーでも少年時代と同じ「二刀流」を貫き、球界の常識を完全に覆した。

文字通り、100年に1人の逸材。それでも、大谷に偉業の実感はない。

「うーん、単純に2つやっている人がいなかったというだけかなと思うので。それが当たり前になってくれば、もしかしたら普通の数字かもしれないですし、それは単純にやっている人が少ないっていうことかなと思います」

2桁勝利と2桁本塁打が「普通の数字」。今の大谷のプレーを見て、天国のルースはどんな言葉をかけるだろうか。

◆ベーブ・ルース 1895年2月6日、米メリーランド州ボルティモア出身。1914年にレッドソックスでデビュー。レ軍ではエースで3度のワールドシリーズに導き、いずれも世界一。20年のヤンキース移籍後は打者に専念し、主に外野手。公式戦通算は投手で94勝46敗、防御率2・28。打者では打率3割4分2厘、歴代3位の714本塁打、同2位の2214打点。長打率6割9分とOPS1・164は同1位。本塁打王12度、打点王5度、首位打者1度、23年にMVP。引退した翌36年に第1回殿堂入りを果たした。背番号3はヤ軍の永久欠番。オールスター誕生のきっかけ、入院中の少年に約束したワールドシリーズの本塁打など、多くの逸話を残す。現役時のサイズは188センチ、97キロ。左投げ左打ち。

◆日本では2度達成 大谷は日本ハム時代、日本のプロ野球で初となる10勝&10本塁打を2度達成している。14年に11勝、10本塁打、16年に10勝、22本塁打をマークした。

◆日本人通算700号 大谷が今季25号を放ち、日本人大リーガーの通算本塁打は700本に到達した。1号は98年4月28日ブルワーズ戦で投手の野茂(ドジャース)が記録。最多は松井秀の175本。大谷の通算118本はイチローの117本を上回り単独2位。

▽日本ハム近藤 「すごい」の一言に尽きます。同じグラウンドでプレーしていたとは思えないほど、遠い存在になってしまいましたが、翔平にとっては、まだまだ通過点だと思います。ケガだけはしないように、これからもメジャーで活躍してほしいです。

▽楽天石井GM兼監督 経験者として、とてつもないことだと思います。どんだけ勝つことが難しい世界か、僕も体験している。どんだけメジャーの投手を打つのが大変か、打席に入って分かっている。ただ、大谷君の実力からしたら道半ば。もっと頑張ってほしい。

▽巨人原監督 ベーブ・ルース以来だからね。いやいや、我々が語ることのできないね、見事だと思いますね。何という言葉で形容していいか分からないくらいのね。やっぱり人間って可能性を持っているんだなと、すごいと思いますね。

▽巨人中田(日本ハムでのチームメート時代に大谷を見て)「一番近くでアイツのすごさというものを見てきたのでね、別に驚かないですけど、一ファンとしてもっともっと頑張ってくれるのを応援したいと思います」