【セントピーターズバーグ(米フロリダ州)23日(日本時間24日)=斎藤庸裕】エンゼルスのアート・モレノ・オーナー(76)が球団の売却先を検討していることが、球団から発表された。今後は新オーナーに球団の所有権を譲り、組織全体で新体制を固めていく。現時点ではすべてが不透明だが、23年オフにフリーエージェント(FA)となる大谷翔平投手(28)の去就に影響することは避けられない。

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レイズ戦開始6時間前、エンゼルスから驚きの発表があった。球団の所有権を得て20年目のモレノ・オーナーが「難しい決断だったが、よく考え、私と私の家族は最終的に今がその時との結論に至りました」と、文書で売却先の検討に動いていることを明かした。

8月2日の移籍期限を前に守護神を含む主力3選手を放出し、チームは再建へ向けてかじを切った。わずか3週間後、トラウトらスター選手の長期契約や大物FA選手の獲得に決定権があったモレノ氏が、球団売却の方針を打ち出した。今がその時-。二刀流の大谷を保有し、市場価値が最も高いタイミングで球団を手放すこととなった。

移籍期限前から売却を検討していた可能性はぬぐえないが、大谷を放出すれば球団の価値が下がるのは明白だ。14年以来プレーオフ進出を逃しているにもかかわらず、チームの資産価値はメジャー30球団で9位の22億ドル(約2970億円)とされる。米メディアによれば03年、モレノ氏はウォルト・ディズニー社から1億8400万ドル(約248億円)で球団を買収。ビジネス面からは、理にかなう時期と言わざるを得ない。

水面下では新オーナーの有力者と交渉が始まっている可能性もあるが、現時点では球団の行く末も大谷の将来もすべてが不透明。地元オレンジ・カウンティー・レジスター紙は「長期契約を結ぶ前に球団の方向性を知りたい大谷にとっては、新オーナーが決まるまで評価するのは難しい」との見解を示し、一方でCBSスポーツやESPN電子版は、同じく球団売却を進めていたナショナルズが今夏、強打者ソトをパドレスに放出した例を挙げ、トレードの可能性を指摘した。

大谷の年俸は来季以降、大幅増となることが見込まれる。モレノ氏はチームの総年俸が基準額を超えた分だけ課税されるぜいたく税の支払いに消極的な姿勢を示していたが、新オーナーとなれば方針が変わる可能性もある。契約延長か、トレードか、来年オフのFAまで待つか、大谷の先行きが見えない現状でさまざまな臆測が飛び交う。来春にはWBCも開催される。二刀流の去就に影響することは避けられない。

◆アート・モレノ 看板などの屋外広告を扱う「アウトドア・システムズ」のCEO。03年にエンゼルスを購入し、メジャー初のメキシコ系米国人の球団オーナーとなった。20年10月には、エンゼルスタジアムと周辺の土地をアナハイム市から総額3億2000万ドル(約432億円)で購入することで合意していたが、今年5月に市長の汚職が発覚し白紙となった。

<近年の球団売却>

◆メッツ 20年11月、ウィルポン一族が地元出身の投資家スティーブ・コーエン氏に史上最高額の24億7500万ドル(約3340億円)で売却。コーエン氏の総資産は2兆円以上とされ、昨オフにシャーザー投手ら大物FA選手を補強。

◆ロイヤルズ 19年11月、デービッド・グラス氏が地元実業家ジョン・シャーマン氏らのグループに約10億ドル(約1350億円)で売却。グラス氏は00年に球団を9600万ドル(約130億円)で購入していた。

◆マーリンズ 17年9月、ジェフリー・ローリア氏が元ヤンキースのデレク・ジーター氏と実業家ブルース・シャーマン氏らのグループに約12億ドル(約1620億円)で売却。ジーター氏は今年2月にフロントと対立し退任した。

◆マリナーズ 16年8月、過半数の株式を保有し筆頭オーナーだった任天堂が、株式10%を残し地元実業家ジョン・スタントン氏らのグループに売却し経営権を譲渡。任天堂は92年から筆頭オーナーを務めていた。

◆パドレス 12年8月、ジョン・ムーア氏がドジャース元会長のピーター・オマリー氏らの率いるグループに8億ドル(約1080億円)で売却。20年にオマリー氏のおい、ピーター・サイドラー氏が筆頭オーナーになった。

◆ドジャース 12年3月、フランク・マコート氏が元NBAのスター選手、マジック・ジョンソン氏らの率いる投資グループに売却。総額20億ドル(約2700億円)は当時のプロスポーツ史上最高額。

◆ナショナルズ 22年4月、筆頭オーナーのマーク・ラーナー氏が球団売却の可能性を示唆。ラーナー家は06年からナ軍を所有し、同氏が2代目。売却交渉に関する報道はそれ以降出ていない。