エンゼルスのアート・モレノ・オーナー(76)は23日(日本時間24日)、球団売却を中止し、23年以降も継続保有することを発表した。昨年8月に売却の手続きに入ると発表し、複数の買収候補と交渉を続けていた。年俸総額の更新を約束したが、今季終了後にFAとなる大谷翔平投手(28)との契約に、さらなる注目が集まりそうだ。

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エンゼルスは一体、どこへ向かっているのか。球団を通じて、モレノ氏は「まだ、やり残したことがある。ファンにワールドシリーズ優勝をもたらすという目標を達成したい」とコメントした。ではなぜ、昨年8月に売却の方針を示したのか。今オフ、野手を中心に補強は着々と進んでいたが、FA選手との大型契約やトレードの決定権もある球団トップの考えが二転三転しては、チームの足並みがそろうとは到底思えない。

現在、エ軍の最優先は、大谷との契約延長だろう。今や球団の人気と収益を支え、投打で欠かせない存在のスーパースターには当然、破格の資金が必要となる。一方で、大谷が最も求めるのは勝てる球団でプレーオフに進出し、ワールドシリーズを制覇すること。これまでのエ軍のように、資金はあってもFA選手との大型契約を渋るなら、補強がうまくいかないチームの体質は今後も変わらない。だとすれば、資金潤沢で大型補強を惜しまない、強豪チームへの移籍を大谷が望んでもおかしくない。

球団関係者によれば、モレノ氏は勝つことを優先しながら、収益を失いたくない考えがあるという。今季は年俸総額が既に球団史上最高(21年の約1億8000万ドル=約234億円)を更新することが確実視される。仮に大谷と長期契約するなら今後、年俸5000万ドル(約65億円)以上とも報じられており、チームの年俸総額が一定額を超えると課される「ぜいたく税」の支払いも避けられない。

昨年8月初旬のトレード期限直前には、モレノ氏の意向で大谷の残留が決まったと報じられた。オーナーとしては、手放したくない存在であることは間違いない。このままのエンゼルスなら移籍の可能性が高いが、モレノ氏が「やり残したこと」として、今後も資金をつぎこみ、チーム補強をいとわないなら、大谷の逆転残留もありうる。【MLB担当=斎藤庸裕】

◆エンゼルスの球団売却経緯 昨年8月23日、モレノ・オーナーが「難しい決断だったが、よく考え、私と私の家族は最終的に今がその時との結論に至りました」と売却手続きに入ると発表。9月に中国系南アフリカ人富豪で、ロサンゼルス・タイムズ紙とサンディエゴ・ユニオントリビューン紙を保有し、NBAレイカーズのオーナーの1人でもあるパトリック・スーンショング医師が買収候補と判明した。

今年1月にはNBAウォリアーズのオーナーで、エンゼルスタジアムの売店でアルバイト経験があるジョー・レイコブ氏が、「我々オーナーグループが買収に興味を示しているという報道は事実だ」と検討を認めた。また、具体名は不明だが、日本人グループも名乗りを上げたと伝えられている。