バスケ王国秋田から、苦労人プロ野球選手がはばたく。ヤクルトから6位指名された軟式野球の相双リテック(福島)菊沢竜佑投手(28)が26日、福島・いわき市内の同社で指名あいさつを受けた。隠し玉と話題になった秋田出身の右腕はバスケットボールが大好き。兄翔平さん(31)は名門能代工で03年のウインターカップに優勝するなど活躍した。心にバスケ界のレジェンドB1栃木田臥勇太(36)の言葉を秘め、プロの舞台で輝くと誓った。

 菊沢が心に刻んでいたのは秋田の伝説的選手の言葉だった。座右の銘を問われ、「好きな言葉は『Never Too Late』。遅すぎることはないという意味。いい言葉で大切にしている。田臥さんの本なんですけど」と笑った。秋田・能代工出身で日本バスケ界を代表する田臥の格言。28歳でプロ野球の扉をこじ開けたオールドルーキーにはぴったりだった。

 秋田魂が胸に宿る。競技種目は違えど「バスケットが好き」とバスケ王国で育った誇りがある。兄翔平さんも能代工で活躍。小学生時代には毎年5月に開催される能代カップに家族で足を運び、高校時代9冠を達成した田臥に興奮した。だからこそ目指すのは「格好いいと思われる選手になりたい。プレーでも立ち居振る舞いでも、いろんな面で」とオーラをまとう選手だ。

 武器は精神力の強さだ。立大3年秋に右肘の靱帯(じんたい)再建手術。卒業後就職し、社会人となると1年間は社業に集中した。だがプロへの道をあきらめきれず、クラブチームに入り、手取り14万円程度の月給ながらバッティングセンターでも働いた。月給300~400ドルの米独立リーグでも投げ、軟式の相双リテックでつかんだ夢への切符。「大卒から社会人もやって、全ての経験をつなげていけたら」と経験はマウンド度胸に生きる。

 球団は即戦力として期待する。指名あいさつに訪れたヤクルト鳥原公二チーフスカウト(62)は最速148キロの直球を評価。「軟式でこんな投手がいるの?」と驚いたという第一印象を振り返り、「来年オッと思うことが起こるのを楽しみにしている。がむしゃらに食いついてほしい」とハッパをかけた。

 12年1位入団の石山(金足農)は同郷で同級生。菊沢は「一緒にがんばっていきたい」と意気込む。遅咲きの秋田の花が、まもなく神宮で開く。【島根純】

 ◆菊沢竜佑(きくさわ・りゅうすけ)1988年(昭63)5月16日、秋田市生まれ。10歳で野球を始め、秋田高3年夏は県4強の原動力となる。立大から横浜金港クラブ、米独立リーグを経て15年12月に相双リテックに入社。183センチ、85キロ。血液型A。家族は両親、兄。球種はスライダー、カーブ、シュート、フォーク。右投げ右打ち。

 ◆秋田出身のプロ野球選手 投手、野手で名選手が輩出されている。打者では「3冠王」の中日落合博満GM(62)や元近鉄石井浩郎氏(52=現参議院議員)、楽天を退団した後藤光尊(38)がいる。投手では284勝を挙げた「サブマリン」山田久志氏(68=日刊スポーツ評論家)が有名。現役ではヤクルト石川、ソフトバンク摂津らが活躍している。