クールな男が1度だけ、感情をあらわにした。4回。楽天岸孝之投手(32)は浅村を新球スプリットで空振り三振に仕留めると、グラブを力強くたたいた。実戦で初めて投じた球種。「則本から習ったスプリットです。ブルペンでは投げてましたが、決まってくれてよかった」。古巣西武を相手に7回を3安打2失点。新たな本拠地で初勝利を決めた。

 転機でこそ、進化を求めてきた。西武に入団した07年。大学時代に140キロ出ていた球速が130キロ台に落ち込んだ。原因を模索する中で1つの考えにたどり着いた。「良かった時に『戻そう』と思うことをやめたんです」。プロでのトレーニングで体格も変化。マウンドでの負荷、登板回数も、これまでとは異なる。「そういう部分では成長しているのに、技術的な面だけを昔に戻そうとするのは矛盾していると思って。どうすればもっといい球を投げられるのか、と考えた方が前に進める」。直球をカット気味に投げるように取り組み、球速は140キロ後半までアップした。

 後ろを振り返るより、前進することを選ぶ-。プロ11年目で挑む新天地での戦い。新たな球種=スプリット習得は、その決意の表れでもあった。初めて立ったKoboパーク宮城のお立ち台。「(本拠地登板)2戦目で勝てて最高です。これだけお客さんも入っている。負けるわけにはいかなかった」。スタンドの大歓声に応える表情には確かな手応えがにじんだ。進化する右腕は、黙々と白星を重ねていく。【佐竹実】