勝てなかったが、収穫はゼロではなかった。虎キラーの巨人田口麗斗投手(21)を序盤に攻めたてて5得点。9月初4番に座った福留孝介外野手(40)が2打席連続タイムリーを放った。9回には痛恨の失策を記録してしまったが、クライマックスシリーズで対戦する可能性のある天敵左腕を攻略した意味は決して小さくない。

 福留が2本のタイムリーで虎に光を差し込んだ。まずは初回だ。1死二、三塁で3球目、外角低めのスライダーをたたくと、打球はセンターに抜けた。先制の中前2点打。チームを鼓舞する一打を「みんなの作ってくれた、いい流れに乗り、打つことができました」と振り返った。2回には2死一、三塁で右前適時打。この日は2安打3打点。福留の活躍を軸に、打線は昨季から7連敗中だった天敵・田口を攻略した。

 40歳はこの日は10時過ぎに球場入り。前日11日は試合がなく、感覚を取り戻すため、入念に体をケアしたが、欠かさないケアは勝負を決める職人のバットにもある。ベンチに持って入る試合用のバットは、エナメルケースに入れて運ぶ。適度な湿度のバランスを保つためだ。ただ運ぶだけでなく、細かな配慮をしている。そんな相棒で、チームが苦しめられてきた左腕から価値ある2本の適時打をマークしてみせた。

 9月に入ると4番の座を新人の大山に譲ってきた。だが、この日は8月31日ヤクルト戦(甲子園)以来、10試合ぶりに4番復帰。即座に結果を出し、起用に応えた。巨人は3位をDeNAと激しく争っており、クライマックスシリーズ進出の可能性は十分ある。当然ながら、田口と顔を合わせる可能性もある。阪神にとっては、通算10試合目で田口から奪った1試合5得点は最多。15年4月18日以来の黒星をつけることはできなかったが、大きな意味を持つ試合だった。

 ただ、明暗は分かれた。9回の守備では悔しい場面があった。無死一、二塁で代打橋本到の飛球がふらふらと向かってきた。遊撃手の大和が懸命にバックするも、届かず。左翼の福留がすぐさま拾い上げて送球したが、悪送球。まさかの失策で同点とされた。試合後はその悔しさからか、表情を変えることなく球場をあとにした。

 延長戦までもつれ込み、勝ち切れなかった。金本監督は「(引き分けは)微妙なところですけど、ドリスもあそこでよく粘ったし、岩崎も踏ん張った」と救援陣の踏ん張りをたたえた。打線には「あと1本」と注文をつけたが、先をみれば、ターニングポイントになるかもしれない田口攻略劇だった。【真柴健】