胃がんを乗り越えて3軍に復帰した広島赤松真人外野手(35)の存在が、広島を連覇へと近づけた。摘出手術を受けるため昨年末にチームを離れた後もナインとの交流は続き、共に戦ってきた。

 1軍出場はおろか、赤松は2軍にすら復帰していない。だが赤松真人の存在は確かに、広島を連覇へと近づけた。6日、サヨナラ打を打った会沢は「僕たちは仲間。少しでも勇気づけられれば」と思いを伝えた。すぐに「渡したいものがあるんで」とぶっきらぼうに電話。ウイニングボールを渡すことを約束した。ステージ3aの胃がん切除手術、抗がん剤治療。前例のない闘いから復帰を目指す男は、確実にチームの中にいた。

 赤松 カープは家族みたいな存在。選手はみんないいヤツ。球団の方も温かい。本当に感謝しかない。

 1軍の試合前。病床の赤松にロッカールームから着信が来たこともあった。菊池がテレビ電話でナインの顔を映した。高ヘッドコーチが「おうっ!」と登場することも。「うれしいよ。でも気を使ってもらわんでもって思うけどね」と赤松。しかし菊池は「僕らの方だから。みんなが赤さんと話したら元気になるから」と言う。「ために」ではなく「共に」戦ってきた。

 今もマツダスタジアムの赤松のロッカーはそのままだ。2軍に落ちれば入れ替わりで空けるのが慣例。球団幹部の「まだいいよ」との配慮だ。だが気を使われたくないと、赤松はこっそりと荷物を運び出す。「9年かな。モノはだいぶ持っていったけど。クリアケースとか誰か使ってくれたらいいけど。やっぱり空けるのは寂しいよ」。またここを使うために。赤松は大地を踏みしめて進む。

 「生きている」。そう感じる毎日だ。目が覚めるたびに思う。「あー俺、生きてるなって」。手足にしびれが残り「痛い」ことを隠さない。だが笑顔のままで「俺は死んでたわけやからね」と言う。野球をするのはもう、自分のためではない。「恩返しというかね。復帰できたら、メッセージ性はすごいと思うから」。そう言って息を吸い込む。1歩ずつ。ただそれだけだ。暗くなく、無理に明るくない。でも赤松は、きっと。いや必ず帰ってくる。【池本泰尚】

 ◆赤松の闘病&リハビリ経過 昨年12月28日に「初期段階の胃がん」を患っていることを公表。今年1月5日に摘出手術を受けた。術後に「リンパ節」に転移が見つかっていたことが判明。7月7日に抗がん剤治療を終え、同11日に広島・大野練習場でリハビリ組の3軍に復帰。