グッとかみしめて振り切った。ぶっ飛ばした白球が、ぐんぐん伸びてバックスクリーンへと吸い込まれていく。阪神中谷は目を見開き、大きくバットを放り投げて、手応えありのサインを出した。それでも本人は「追い込まれてしまったので強引にならない事を意識して打ちにいきました。打った瞬間の感触は良かったのですが、入るとは思いませんでした」。驚きの表情でダイヤモンドを1周した。

 じっくり積み重ねて、たどりついた20発目。アーチを量産できる秘訣(ひけつ)は、肌身離さない大切な相棒にあった。試合に臨む際、バットを1本だけケースに入れて運ぶ。「試合用の(バット)ですね。湿気ないように」。木材のコンディションを気に掛け、打席に入る前には、いつも祈りを込めてきた。

 2点を追う4回にチームを勢いづけるソロを放ったが、試合後は「よかったです」と一言のみ。短い言葉から優勝への道が閉ざされた悔しさが伝わってきた。

 金本監督は「20本でみんな騒いでいるけど、もっと取り組む姿勢を変えていけば、もっと打てると思う。まだまだ能力、伸びしろはある。あとは彼次第でしょう」と成長著しい若武者に、さらなる期待を込めた。

 生え抜きの右打者が20本塁打をマークするのは、06年の浜中治(現2軍打撃コーチ)以来。球団11年ぶりの到達で、大砲誕生の予感を漂わせた。

 この日は1点差での敗戦。目前で広島に胴上げを許した。大きな可能性を背負った24歳が、悔しさを糧にバットを振り続ける。【真柴健】