ソフトバンクが2年ぶり17度目の日本シリーズ出場を決めた。クライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第5戦で、工藤公康監督(54)が右脇腹痛でリハビリ組だった柳田悠岐外野手(29)を緊急昇格させ、1番中堅で先発起用。その柳田の遊撃内野安打を起点に初回3点を奪い、快勝。2連敗後に工藤監督がナインに「バカになれ」とゲキを飛ばしてから3連勝で突破。28日からの日本シリーズで2年ぶりの日本一を目指す。

 「バカ」になった男たちが、本能で勝った。歓喜の輪の中に、まだ右脇腹痛が完治していない柳田がいた。笑顔で工藤監督を胴上げした。前日まで福岡・筑後市のファーム施設でリハビリしていたが、この日緊急昇格。1番中堅で先発出場し、初回いきなり楽天美馬のスライダーを遊撃内野安打した。負傷して1カ月、生きた投手の球を見ていないのに、だ。犠打で二進後、暴投の際、反射的に三塁へ。先制ホームを踏んで、初回3点の起点になった。

 必要だから、呼ぶ。「野球バカ一代」ストーリーを描いたのは、工藤監督だった。前日21日昼に柳田に電話し「いけるか?」と招集。回復が遅れ、CS出場は絶望視していた。柳田本人もロッカーから荷物を全部出すなど欠場を覚悟。だが、工藤監督は「いるだけで相手にはプレッシャーになる。チームにとっては欠かせない選手」と、諦めなかった。

 この日の試合前練習のフリー打撃で32スイング中10本の柵越え。工藤監督から迷いは消え、スタメン出場を決めた。1番に置いたのは、万一故障が再発しても城所、福田と交代が可能だから。主軸に入れて途中交代すれば、打線が弱る恐れがある。同時に、柳田本人が抱える悔恨を軽減する意味もあった。

 突破確率0%からの奮起だった。パCS初戦黒星チームは過去1度も突破できなかった。しかも、東浜、千賀でまさかの連敗。第3戦を迎える朝、腹をくくった。工藤監督は2連敗スタートに「正直、これはヤバイなという雰囲気もあったんですけど。何かできることはないかと思って。円陣に入って『バカになって野球をやろう』と声をかけた。みんな元気にやってくれたと思います」。監督自身も喜怒哀楽をむき出しにした。勝負師の本能を研ぎ澄ました采配は当たった。第3戦では中村晃を3番から7番に下げ、今季2試合しか出場のない城所を抜てきし大活躍。第4戦では同じく2軍暮らしが長かった長谷川勇が活躍した。この日は今季レギュラーとして育ててきた上林を、柳田と入れ替え登録抹消した。

 「バカの勧め」が逆転のパワーになった。逆境をはね返したのは、自分たち本来の力。リーグ1位の力そのまま、無心に采配し、無心に戦った。歴史を塗り替えた「バカ」たちが、次はセ・リーグの王者に襲いかかる。【石橋隆雄】

 ▼ソフトバンクが4勝2敗で、15年以来17度目の日本シリーズ出場を決めた。15年は4勝0敗で突破したが、今年は第1戦、第2戦連敗で□●●の1勝2敗から3連勝。日本シリーズ出場をかけたプレーオフ、CSで1勝2敗から進出は77年阪急○●●→○○、10年ロッテ■○●→●○○○、12年巨人□●●→●○○○に次いで4度目。CSとなった07年以降、第1戦黒星で突破は08年巨人、09年巨人、12年巨人、15年ヤクルトのセ・リーグ4チームだけで、パ・リーグのCSでは初めて。