まったく違う形の二刀流で連覇を成し遂げるはずだった。「今年の日本ハム」には大谷翔平投手(23)のケガによって幻となった新二刀流プランがあった。栗山英樹監督(56)のやりたかったこととは、何だったのか?

 日本一の胴上げから、まだ1週間しかたっていなかった。栗山監督は、悩める胸中を明かし、新たな挑戦を“予告”していた。「もしかしたら、これまでが間違っていたのかも知れない。今は全然違うことを考えている」。主語は、大谷の二刀流起用について。昨年11月のことだった。

 入団当初から、大谷の打撃には高い評価があった。高卒新人として開幕戦に出場し、西武岸(現楽天)から2安打したように、初めから1軍の戦力だった。一方で同監督は「投手の方はヘタクソ」と言ってきた。それでも…。起用は常に投手が軸にあった。

 まだ体の出来上がっていない1、2年目は間隔を空けることもあったが、3年目以降は中6日の登板前後を休み、それ以外に打者で出場するサイクルが確立された。16年には右手指にマメができた影響で登板できない時期があったにもかかわらず、10勝を挙げ、防御率1・86と活躍。バットでも3割2分2厘、22本塁打と存在感を示した。史上初めて投手とDHで同時にベストナインに選出された。

 チームも頂点に立ち、二刀流は成熟しつつあるかに思えた。…だが、同監督の考えは違った。今季を迎えるにあたり「打者を中心にして、その合間で登板させる」と決めた。これまでとは正反対に、軸は打者。登板は中10日以上空けながらこなすという構想だ。大谷の打撃力は球界トップクラス。規定打席に到達すれば、首位打者や本塁打王、いや3冠王すら狙える素質がある。その一方で、間隔を空けたとしても15試合ほどは投げられる計算になり、2桁勝利も十分に考えられる。「二刀流はチームを勝たせるためにやっている」。指揮官の言葉に沿えば、むしろこの方が戦力として活用できる。

 また昨オフの段階で、球団はすでにポスティングシステムでのメジャー移籍を容認しており、栗山監督としては、近い将来に二刀流として海を渡ることが決まっている大谷の、起用の幅を広げておきたい狙いもあった。「そんなおこがましいこと、オレは言えない」とはぐらかしたが、ある程度形になった「投手軸」の起用法に加え「打者軸」の新スタイルも経験して海を渡れば、獲得する側のメジャー球団もイメージしやすい。世界へ飛び立つ“子”を思う、親心だった。

 だが実現は、しなかった。大谷は右足首の負傷と太もも裏の肉離れなどで長期離脱。栗山監督のもくろみは泡と消えた。それでも最後の最後に、愛情あふれるプレゼントを贈った。シーズン佳境の9月。大谷は、告げられた。「残り試合を打者と投手でどう出場するか、自分で考えてみなさい」。新天地では、誰も二刀流の知識がない。自身で決断しなければならない場面が必ずある。予行演習を用意したのだ。栗山監督は「その通りにしたかどうかは別だよ」と詳細を伏せたが、この経験は大谷の今後に生きるはずだ。

 所属先がエンゼルスに決まった時、栗山監督は「個人的には違う形の二刀流があると思う。アメリカだし、こっちが『おっ』と思うようなものが見たい」と言った。大谷と栗山監督で育んだ「二刀流」には、まだ多くの可能性がある。ベースボールの本場で、どんな興奮が待っているのだろうか。【本間翼】