「不安と楽しみ、半々です」。

 西武佐藤勇投手(23)は、今の心境をこう明かした。

 ユニホームを脱ぐことを決め、不動産、飲食など多角的な事業を展開するGSLへ就職する。「まだ(野球を)やれるという思いもあって」1カ月以上、悩みに悩んだ。周囲にも相談したが「自分の人生。最終的には自分が決めないといけない」と、新たな世界に飛び込む決断をした。

 背中を押したのは、かねて抱く「指導者になりたい」という思いだった。同社は子どもたちを対象にした野球塾も運営。営業職と兼務し、仕事として責任を持って野球を教えることができる。引退を決断後、元プロ野球関係者が学生野球の指導者になるための資格回復研修会も受講。「プロという、野球の世界のトップでプレーすることができた。この経験を子どもたちに伝えていくのも義務だと思うんです」と力を込めた。

 技術以外のアドバイスも送れるように、トレーニングコーチの勉強もスタートした。「年齢に応じた筋トレや体作りがある」とトレーニング学や栄養学の専門書を読み込んでいる。進路を決めた際に、先輩左腕の菊池からも「何か新しい知識を身に付ける勉強もしたら楽しいんじゃない?」と助言を受けたという。「こういう勉強は嫌いじゃないんです。これからは体より頭を使いますね」と話す目は、輝いていた。

 地元福島の高校で野球を教えたいという大きな夢がある。「震災が起きたとき、何も出来なかった。自分は福島で育った人間。何か1つでも貢献したい。地元ともっとつながりを持ちたい。将来的に、指導者という形でそれが出来たら、本当にうれしいです」。

 今も故郷で暮らす母久江さんからは「頑張って」と激励された。そのひと言が、心に染みた。小学1年時に父が他界。女手ひとつで育ててくれた母への感謝を忘れたことはない。16年5月24日楽天戦で挙げたプロ初勝利のウイニングボールを届けたが、その1勝でプロのキャリアを終えた。「プロになってあまり恩返し出来なかった。セカンドキャリアで、毎年何か1つでも恩返ししていきたい」と誓った佐藤。福島、そして母への思いを胸に、サラリーマン兼指導者の卵として、リスタートする。【西武担当 佐竹実】