根底には「丁寧」があった。西武の宮崎・南郷キャンプでは栗山巧外野手(34)がティー打撃を工夫している。左打者は左斜め前方からトスされた球を正面のネットに向かって打つのが一般的だが、それとは異なる。栗山のティー打撃に潜入した。

 第3クール3日目の13日。栗山は順番が回ってくると、ティースタンドを手にした。スタンド上の球を打つ“置きティー”から始める。置きティーを行ったのは、野手18人中、中村、メヒア、秋山、山川と合わせ5人と少数派。実は、栗山が置きティーを積極的に始めたのは、2、3年前にすぎない。「試合で斜めから球が来ることは少ない」と、実戦に近い形を求めた。

 狙いは「自分のタイミングを意識し、自分のポイントで打つ」こと。静止した球だから、より可能となる。さらに、5分25秒で29球だけ。1球あたり11秒2と時間をかけた。途中でスイングをやめたのが4回もあった。「タイミングが違うまま打ちたくない」からだ。ちなみに、2年目の鈴木は12分37秒で101球(1球あたり7秒5)。「力強く速いスイングを心掛けてます。量は勝手にいっちゃいます」。目的の違いが、テンポの差に表れる。

 続いて、栗山は本塁の位置にあたる地面にバットで直径15センチほどの○を3つ書いた。左足の前、へその前、右足の前と一列に並べる。トス役への目印だ。横(正対する三塁方向)から順に左足→へそ→右足の○の上を目がけトスしてもらう。「横からの球はバットの面で捉えないと芯に当たりません」。バットを返しすぎても、返さなくてもダメ。面で捉え中堅方向を狙う。だが、左足の前だと引っ張り切れずに打球はレフト方向へ、逆に、右足の前はライト方向へ行きがちだった。3つ全てのポイントで狙い通り捉えるのは難しい。25球を打ち、再び置きティー15球で締めた。

 ティー打撃は「フリー打撃の準備」と位置づける。横からの球を打つのは、打撃投手相手のフリー打撃で、バットの面で捉えられていないと感じたからだ。「特打なら数を打ちたいですが(全体練習の)フリー打撃は丁寧に打ちたい。だから、ティー打撃も丁寧に」。その心は「丁寧にやらないと、打撃がバラバラになった時に気が付かない」と、自分の打撃の小さな変化を逃さないことにある。

 栗山の姿勢を、嶋打撃コーチは「常に進化しようとしている。無駄なスイングが1つもない」と高く評価する。16年間で1644安打。ティー打撃に象徴される日々の「丁寧」が積み重なった結果でもある。【古川真弥】