たった8行のコメントに女房役の思いが詰まっていた。

 4月1日の日刊スポーツ大阪版の3面。

 「藤浪続投応えられず」の見出しが躍り、巨人との開幕2戦目の3月31日に先発した藤浪のメーン記事がある。その下に、ごく控えめに「阪神梅野」の談話が出ていた。「なんとか(ボールを)後ろにそらさないことでフォローしてあげたらいいと思っていた」。紙面でこそ目立たないが、制球難で苦しむ藤浪を、必死に支えようとする姿が際立っていた。

 奮闘の跡を1日の巨人戦前に見た。梅野が練習前、体をさすりながら「背中が…」と笑う。脇腹も張っているだろう。前日、身をていして藤浪の剛速球を捕り続けた証だ。1回から制球が定まらない。先頭陽岱鋼への3球目。157キロが外角低めに外れ、土ぼこりが舞う。瞬時に、身をよじらせて、逆シングルで捕球。6回途中、104球で降板するまで、ワンバウンドの荒れ球が10球あったが、後ろにそらしたのは走者がいない1度だけ。正面で受け止め、身を翻して逆手で捕る。暴投も1度あったが、体の前に落としていた。

 梅野は言う。「晋太郎に勝ちがついてほしい。1球1球、気を抜けない。あのスピードでは体ごと、捕りに行くのはできません」。圧巻は6回無死一塁で長野への4球目。本塁の1メートル近く手前でバウンドした151キロも逆手で捕った。「1つでも先の塁に進ませないことが大事」。左腕を柔らかく自在に使うキャッチングで、執念の防戦だった。

 山田バッテリーコーチも「止めるのは当たり前のことだけど、あのワンバウンドは難しいし、うまさもある。ハンドリングは藤井並みだね」とうなずき、捕球に定評があった阪神藤井2軍バッテリーコーチになぞらえた。入念な準備が鉄壁の守備を支える。実は、捕手陣は藤浪の登板日、試合前練習で普段行わないメニューを採り入れている。構えた捕手の左右にワンバウンドの球を投げ、順手、逆手で捕る作業だ。方向指示が約10球、指示なしでランダムに5球ほど捕る。球筋の予測が難しい藤浪の球を制する工夫だ。入念な準備を怠らず、鮮やかなキャッチングにつながっている。

 捕球で心掛けることもある。「上から捕りに行かない。バウンドに合わせるように下から捕りに行く」。ワンバウンドとの距離感を測る技術だ。藤浪に球を落としてこいとジェスチャーで示すこともあるという。開幕3連戦では、メッセンジャーや秋山のフォークも全身で止め続けた。武器の強肩だけでなく、捕球でも好捕を連発し、信頼を勝ち取るプレーだろう。「自分を信じてやれ!」。山田コーチに言われた言葉を胸に刻み込み、司令塔らしく、堂々と振る舞う。悩める右腕への献身的な姿勢が光った。【酒井俊作】