エースが6連敗中のチームを救った。巨人菅野智之投手(28)が8回6安打1失点で、今季3戦目にして初白星を挙げた。新球シンカーを封印し、フォークを有効活用。自身の現状を理解し、進化と原点を混ぜ合わせ、苦しみから脱出した。打線もクリーンアップが機能し、今季2度目の2ケタ得点と大量援護。大黒柱の復活がチームをよみがえらせた。

 苦しみ、もがき、ついにオアシスへたどり着いた。菅野はお立ち台上で4万人を超えるファンへ心の声を漏らした。

 「ホッとしています。みんなで勝ち取った勝利だと思うので、一生忘れることのできない1勝になりました」

 開幕戦の阪神戦、2戦目のヤクルト戦ともに5失点。果てしない砂漠の中に光る勝利に飢えた。だからこそ幾度と見た勝利の褒美を、感慨深くかみしめた。

 持ちうる道具を駆使した。6回無死一、三塁。7点リードだが1点も与えるつもりはない。松山をフォークで、安部はスライダーで連続三振。「追い込んだら常に三振を狙っている」。最後は西川を138キロのフォークで仕留め、3者連続空振り三振。真骨頂を示した。

 試合前、コンパスを手に、新たな指針を示した。オフから取り組み、シンカーを習得。だが、この日は1球も投じず、以前からの持ち球フォークを多投し、空振りを何度も奪った。ここ2戦の不調の原因が新球習得の影響だという声も耳に入った。だが違う。「シンカーを投げ始めなかったら、今のフォークの感覚はつかめなかった。遠回りにはなったけど、得たものは大きい」。進化を止めたわけではなく、原点と融合させ、新たな力を得た。

 連敗という砂嵐の中、常に自らの現在地を探った。あるたとえ話が心にある。砂漠の中に1人、たたずむ。手元には地図とコンパスはある。だが、ほとんどの人間はオアシスにたどり着けないという。「自分がどこにいるかが分からないと、道具も意味がなくなってしまう。現在地を知らないと目標が立てられず、ゴールにたどりつけない。だから自分を知ることが大事なんだ」。地図は誰かが描くのでなく、自らが記していく物だと知っていた。

 「絶好調ではないが、今できることは全てやった」と出し切り、昨季リーグ王者との初戦を制した。「今日のピッチングで取り戻せたとは思わない。自分へかかる期待は大きいと思うので、まだまだ頑張ります」。優勝への探索は始まったばかり。右腕が先頭に立ち続ければ、おのずと道は見えてくる。【桑原幹久】