ソフトバンク内川聖一内野手(35)が、プロ野球史上51人目の通算2000安打を達成した。8回の第4打席、西武の左腕武隈から中前打して節目の大記録に到達。王手をかけてからヒットが出ず、苦しみながら15打席目でたどりついた快挙。父と二人三脚で編み出した右打ちが“最強の右打者”の原点だった。
白球が中前ではずむと、内川の顔に笑みが戻った。総立ちで喜ぶ一塁ベンチへ右手を突き出した。「打ててホッとしたのと、全身の力が抜けました。正直、きつかった」。あと1本から今季最長の14打席連続無安打。節目の一打は内川らしく二塁方向、セカンドの頭上を越えるものだった。
天才的な右打ちの原点は父との練習にある。「ああいう教えがなかったらここまで来ていない」。大分工で、監督の父一寛さんから初めて指導を受けた。「丸木に直角にバットの面が当たれば真っすぐ倒れる。遠回りしたら自分の方に倒れてくる」(一寛さん)。丸木を相手に練習を繰り返した。高校時代に求めたのはヒットではなく強い二塁へのゴロ。アウトになろうが、投球に真っすぐバットを当てることを徹底。一寛さんは「2000安打は強い二ゴロから始まったと言ってもいい」と笑う。内川も「中堅から右に打つことが僕の基礎になっている。その打撃を節目にできるのはすごくうれしい」と納得の安打だった。
インパクトの瞬間の「変顔」にも秘密がある。頬を膨らませたり、時には舌を出して打つ。「無意識。小学生の時の写真を見ても舌を出している。昔から自然にやってきていることなので考えたことがない」と話すが、一寛さんは「あれは自分の奥歯を守ろうとする人間の本能らしい」と解説する。03年には奥歯のかみ合わせが悪く首の神経を圧迫。右手の握力を失う「第7頸椎(けいつい)神経障害」になった経験もある。舌出しは、かつてのNBAのスーパースター、マイケル・ジョーダンが有名。ゴルフ界でもタイガー・ウッズが一時行っていた。首と肩周りをリラックスさせ、可動域も広がるとさえ言われる。08年に右打者最高打率、両リーグで首位打者に輝いた技の象徴でもある。
昨年2度の故障に泣かされ、大台到達が今季に持ち越された。残り25本で迎えた今季、開幕戦の第3打席で右手をかぶせるように遊ゴロを打った。わずかなズレからフォームを崩し、不振にあえいだ。「すんなりあと1本が打てないあたり、僕もまだまだだということ」。打撃は繊細。だからこそ「打撃に完成はない。何か満足したら、それ以上がもうないんじゃないかな」と貪欲に向上を求める。
インタビューでは「これだけ目の前にカメラがあって、通過点という気持ちになるわけねえだろ」と笑った。まだ35歳。21世紀最強の右打者ともいえる男は、どこまで安打を重ねるだろうか。【石橋隆雄】