若い力で大物を沈めた。巨人吉川尚輝内野手(23)が1回、中日先発松坂大輔投手(37)からプロ1号となる2ランを放った。無死一塁で迎えた第1打席の2球目、内角に甘く入った変化球を右翼席上段まで運び、試合開始から3球で主導権を奪取した。長く不在だった巨人の正二塁手を、開幕から守る2年目。定評のある広い守備範囲に加え、パンチ力も披露した。その後も攻撃の手を緩めず2カード連続勝ち越し、貯金を3とした。

 未体験の感覚に一瞬、俊足の吉川尚の足が止まった。1回無死一塁。1ボールから中日松坂の内角133キロカットボールにバットを振り抜いた。打球を右翼席上段まで運び「初めての感触。打った瞬間、いったと思った」と興奮気味に先制2ランを振り返った。偉大な怪物から放ったプロ1号。「忘れることは一生ない。すごい投手から打ててうれしい」と、通算167打席目での1発をかみしめた。

 幼心の記憶が刻まれる前に出現していた怪物を倒した。1995年(平7)生まれで、甲子園で春夏連覇した松坂が「平成の怪物」の異名をとった98年は、まだ3歳だった。「僕が知っている限りでは、メジャーリーガーの松坂さんしか分からないです」。テレビの中の、海の向こうのスーパースターから放った記念弾に高橋監督も「松坂という偉大な投手から1号を打てたことは、いい記念になったのでは」と目を細めた。

 一生忘れられない本塁打は大学時代にもあった。中京学院大4年の16年5月。大学通算131安打中、3本塁打の小兵がリーグ戦で“1号”を放った。「おじいちゃんが亡くなった(1年後の)同じ日に本塁打を打てたことです。それを超えるかどうかは分からないけど、それぐらいです」。野球が大好きだった祖父にささげた大学1号と同じ5月に、プロ1号も天国に届けた。

 ヒーローインタビューを終えてロッカー室に戻る直前に、ふと我に返った。「今日はたまたま打てただけ。ホームランを打つ打者ではない。相手に嫌がられる打者になるのが僕の役目なので」。1本の本塁打だけでは自信が確信には変わらない。喜びもひとしおに、明日を、足下を見つめた。【桑原幹久】