トヨタ自動車東日本(岩手・金ケ崎町)が日本製紙石巻(宮城・石巻市)を4-2で破り、7月13日開幕の本大会(東京ドーム)に初出場を決めた。エンゼルス大谷翔平投手(23)の兄でコーチ兼任の龍太外野手(30)は在籍7年目の最古参。部員13人でスタートし、廃校となった小学校の校庭で練習を開始した12年春から先頭に立って引っ張ってきた。1番左翼でフル出場。6度目の挑戦で予選を突破し、歓喜の涙を流した。

 うれし涙が止まらなかった。大谷は優勝が決まった瞬間、右腕で顔をぬぐいながらマウンドに向かうと、すでに歓喜の輪が出来ていた。脳裏にはチーム立ち上げからの思い出が走馬灯のようによみがえっていた。「僕は今まで全国とは無縁だった。7年間の思いが出てきて…。ちょっと輪に加わるのが遅くなっちゃいました」。弟と同様、爽やかに受け答えをしつつ、2年連続の出場を狙った強豪を破った興奮は抑えきれなかった。

 弟が華々しい球歴を誇る一方で、兄は光の当たらない道を歩んできた。地元の前沢高卒業後はクラブチームに所属し、その後は四国アイランドリーグの高知で2年間プレー。12年、出身の奥州市隣の金ケ崎町にトヨタ自動車東日本の発足が決まり、故郷に戻った。チームは13人で始動したが、練習場は廃校となった小学校の校庭。午後8時から8時間の夜勤明けで練習したこともあった。「正直、こんな環境で都市対抗なんて出られるのか、と思った」と当時を回想した。

 2年目に部員が21人に増え、着実にチームは力を増していった。今年は2月から1カ月以上も静岡・裾野で合宿を行った。一方、時を同じくして弟翔平はメジャーに挑戦した。龍太は「弟がすごすぎてライバルとも思ってない。向こうはプロだし。ここまできたら一ファンとして見ています」。LINE(ライン)でやり取りするなど弟の活躍が励みになっている。

 この日は4打数無安打だった。「自分が決めないと、と意識し過ぎて空回りしてしまいました。打てなかった分は東京ドームで返したい」と7月の東京ドームでの本大会が待ち遠しい。弟は投打二刀流で世界一を目指し、兄は選手兼コーチの二刀流で社会人日本一を目指す。「大谷兄弟」は挑戦し続ける。【高橋洋平】