西武菊池雄星投手(27)の“幸せな時間”は、ちょっぴりほろ苦かった。初めてファン投票で出場。全パ先発としてマウンドに上がったが、2回につかまった。1死から鈴木にソロ、宮崎に2ラン。いずれも特大弾で、2回3安打3失点。中4日登板で、最速は144キロにとどまった。しかも、スライダー1球をのぞき、残り20球は全て直球。「ガッツリいかれました」と、苦笑いした。

 それでも、幸せだった。全セ先発が松坂だったからだ。「僕が野球を始めた時から、ずっとプレーされていた。生で試合を見ていたし、憧れていた人。そういう方と同じ球場で時間を共有できる。こんな幸せなことはありません」と打ち明けた。99年、8歳になる年に地元の岩手・盛岡の見前タイガースで野球を始めた。同じ年、松坂はプロ入り。菊池少年は「1年目から最多勝。本当にすごい投手だな」と思っていた。

 中学3年だった06年4月21日が忘れられない。盛岡での楽天戦に西武松坂が先発。「日本一の投手が見られる」と勇んで出かけたが、気温5度の冷え込み。「こんな寒い中では絶対投げないだろう」と諦めた。だが、松坂は出てきた。7回5安打1失点、11奪三振で勝利。155キロを連発する姿に「本当にすごかった。夢みたいな数字でしたから」と昨日のことのように話した。初めてプロのスピードを実感した瞬間だった。

 幸せをかみしめるように言った。「明日、話をしてみたいですね」。少年の顔だった。【古川真弥】