「マイナビオールスターゲーム2018」の第2戦が14日、熊本のリブワーク藤崎台で開催され、阪神糸原健斗内野手(25)が全セ唯一の得点をたたき出した。0-5の8回に左中間へこん身の一撃。途中出場した直前の守備で追加点につながる落球の失策を犯しており、初出場の球宴最終打席で意地の初安打初打点を決めた。後半戦は明日16日の巨人戦(甲子園)で開幕。猛虎の1番が逆襲を引っ張る。
お祭り気分など、まるでなかった。初出場の糸原は目の色を変えていた。5点を追う8回無死二塁。加治屋と向き合い、カウント1-2からの4球目だ。見逃せばボール気味の外角高め速球を痛烈にしばきあげた。ライナーで左翼近藤を襲う。走りながら叫んだ。「抜けてくれっ!!」。強い打球はグラブをかすめて外野を転々…。二塁から菊池が生還する。球宴初安打が、記念すべき初適時打になった。
今季の公式戦は全74試合中73試合にスタメン出場。試合後は勝っても、あまり表情を崩さない。175センチ、78キロの小柄な体で必死に戦っている証拠だろう。だが、この日ばかりは、わずかに目じりを下げる。「タイムリーになってくれたので良かった。(初安打は)素直にうれしい。ヒットを打てましたし、タイムリーを打てて良かった」。日々、完全燃焼している男に与えられたつかの間の至福だった。
快打には伏線がある。この日は7回表の遊撃守備から途中出場。8回2死一塁だ。森友の飛球が上空を舞ったが、目測を誤り落球。痛恨の失策が引き金になって全セが2点を失った。守備の失敗を打撃で取り返す。糸原らしい「反発力」で全セ唯一の得点をたたき出した。金本監督も苦笑いで「ハハハ。まあ今日は許そう。まあ、いいよ、今日は。いい経験をしたでしょう。雰囲気とか。ミスはするんだから、誰でも」と振り返った。
人生を変える夏にする。監督推薦での球宴出場を野球人としてステージを上げるための貴重な機会に位置づけた。前日13日、全セの練習前。涼しい京セラドーム大阪の三塁側ファウルゾーンに歩を進める。「教えてください」。頭を下げた。視線の先にはストレッチをする元大リーガーのヤクルト青木がいた。左打者で巧打者タイプ。共通点が多い。糸原は腰をかがめて貪欲に聞いた。約10分の野球談議だ。打率2割9分4厘で77安打はチーム最多。好調でも向上心は強い。青木は糸原に言う。「打っているだろ。あまり変えない方がいい」。そこには2人だけの濃密な時間が流れた。
同僚の西岡を通じて、かつて食事をする機会があったという。青木は感心したように「いろいろ聞いてきた。吸収したいんだと本気で感じました」と振り返った。前日13日は無安打。3打席目での初めての快音につながった。熊本での試合を終えて、糸原は真剣な表情に戻る。「絶対、今後の野球人生に生きてくる。いろいろ教えてもらったことを試したい」。反骨心を隠そうともせず、後半戦に向かう。【酒井俊作】
▼球宴初出場の阪神糸原が8回に初安打初打点。阪神の選手が初出場で安打を放ったのは昨年の梅野がいるが、初出場で初安打がタイムリーだったのは、16年の原口が第2戦で代打で適時二塁打して以来。