阪神伊藤隼太外野手(29)は鬼の形相でゴロの行く末を凝視した。飛びついた一塁松山のミットから白球がはじかれ、右翼芝生に転がっていく。泥臭くも価値ある決勝打。打倒カープを期した首脳陣の勝負手として機能し、甲子園に漂う重苦しい雰囲気を一気に明るく変えてみせた。

 伊藤隼 どの打席でも集中しているけど、いい場面で回してもらったので。1打席目は内容はともかく結果としてつなげられなかった。今度はいい当たりではなかったけど、結果的には良かったです。

 6連敗中の広島を相手に、プロ7年目で初の3番スタメン。「特に気にすることはなかったです」。福留の積極的休養日にクリーンアップを託されても、中堅組らしく落ち着き払っていた。1点を追う1回無死一、二塁では中飛。同点に追いついた直後の3回1死一、二塁、形にこだわってはいられなかった。九里の低めスライダーに体を沈めて食らいつき、一、二塁間に勝ち越し打を決めた。

 昨季4打数2安打の好相性を誇った右腕を再び打ち砕き、金本監督も納得顔だ。「福留が休みのところ、いいところでタイムリーを打ってくれましたね。あの1本をあそこで出してくれたら、十分仕事をしてくれたと思います」。首位広島相手の、そして聖地甲子園での連敗をストップさせる、味のある働きだった。

 夏。昔抱いていた夢を思い出す季節がやってきた。中京大中京高から慶大4番というエリート街道を歩む中、一時は高校野球の指導者にもあこがれがあったという。「先生になりたかったんです。筑波大に進学して教員免許を取りたいなって。それで公立高校の監督になって、強い中京大中京を倒したいな、なんて考えていましたね」。強い相手を倒したい-。今も変わらぬ負けん気の強さが、この日もまた光った。【佐井陽介】