金本阪神が執念の逆転サヨナラだ。決めたのは北條史也内野手(24)。9回に痛いバントミスを犯したが、延長11回1死三塁できっちり左翼に犠飛を打ち上げた。試合は5点差を逆転し、9回に追いつかれ、11回に勝ち越されるという目まぐるしい展開に。5時間11分に及んだ激闘を制し、阪神は最下位を脱出、4位に浮上した。

 重圧から解き放たれた。歓喜のシャワーと流した汗で、北條がぬれた顔を光らせた。「追い込まれていたので、粘って何かコトを起こそうと」。延長11回1死三塁。がむしゃらに振り抜いた打球がレフト方向に飛んでいく。三塁走者の糸原が懸命にスタートを切ってタッチアップ。サヨナラ犠牲フライで今季最長5時間11分の激闘に終止符を打った。「ちゃんとホームを踏むまで見てましたよ」。最後に笑ったのは苦しみ抜いた男だった。

 歓喜の裏には、背負うプレッシャーがあった。北條は、直前の打席で“ミス”を犯していた。同点の9回無死一塁。初球にバントするも、投手の目の前に転がり1-6-3の併殺に倒れ、サヨナラの芽を摘んでいた。「今日はバントがダメでした。それで、この展開になってしまったので…。ラッキーだと思って。自分で決めてやろうと思ってました」。取り返すチャンスをしっかりいただいた。

 チームとしては今季最大5点差を逆転しての勝利。まさに執念だった。「疲れてたんで、なんか、あんまりよくわかんなかったです。水をかけられたんですけど、その水が気持ちよかった。長い時間でも勝てたのは大きい」。遊撃に定着しつつあるが、今季は開幕2軍スタート。心から悔しさを味わった。焦りからか打撃不振に陥った。どうしても打てない-。首脳陣に、素直に打ち明けたからこそ今がある。2軍奮闘中、毎朝の連続ティー打撃でのことだった。「足、上げない方がスムーズだぞ」。浜中2軍打撃コーチの一言で、余分な動きを削った。コンパクトさを求め、芯でとらえることを意識。体の軸がぶれず、打席での粘りが出た。

 金本監督は「バントの失敗を引きずってなければいいなというのはあった。逆に『取り返すんだ』と、いい意味での引きずり方をしてくれればいいのになと思ってました」と目尻を下げた。負ければ今季最多の借金9を背負う、嫌なムードだったが、この日の勝利で4位に浮上。地獄から天国へ-。ミスを取り返した北條が、さらに虎を引き上げていく。【真柴健】