やはり虎の勝利にはこの男の存在が必要だ。3試合ぶりに4番先発で帰ってきた糸井嘉男外野手(37)が「顔」でチームをけん引した。6回、北條の右前適時打で2点差まで追い上げた後の2死一、二塁。カウント0-2と追い込まれたが、中沢が投じた内角低めの変化球に食らいつき、しぶとく中前に落とす適時打を放った。さらに7回には一時勝ち越しとなる押し出し四球で貫禄を見せた。

 「明日から(試合に)出してください!」

 強行で出場志願した。病院で検査した結果、右足腓骨(ひこつ)骨折が完治していないことがわかったものの、出場できるレベルと判断。この日の出場を目指し、7月31日、8月1日の中日2連戦を欠場。6日ぶりとなる出場にこぎつけた。

 終わってみれば5打席で1安打2打点3四球と4度出塁。役割はきっちり果たした。金本監督は「まだちょっと糸井本来のタイミングといいますか、打撃はできていないと思う。ここから上げていってほしいですね」。万全な状態でない中でもチームの勝利のために超人が体を張った。

 後輩の背中を押した。骨折直後、鳴尾浜でリハビリを兼ねて自主トレを行っていた時のこと。脳腫瘍から再起を期す横田とフリー打撃や守備練習などで一緒に汗を流し、声を掛け合いながら白球を追った。横田は「全部すごいです」と、同じ外野手で左打者の糸井に刺激を受けた。「ライバルというよりか、憧れの存在です」。復活を目指す横田にとって、糸井が見せた大きな背中が励みになった。

 深夜の駐車場では「おやすみ」と笑顔で一言残し、球場を去った。大仕事をやってのけた超人がチームを活気づけた。【古財稜明】