矢野阪神と赤い糸で結ばれていたのは、大阪ガス・近本光司外野手(23=関学大)だった。「プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD」が25日に都内で行われ、阪神が近本を1位指名した。初のドラフト抽選に挑んだ矢野燿大新監督(49)は抽選を2度外し、三度目の正直で交渉権をつかんだ。俊足好守の外野手は、球団OBの赤星憲広氏が達成した「新人王&盗塁王」に挑む。
タテジマから1位指名を受けた近本は、練習を終えたグラウンドから引き揚げてきたばかりで、シャワーを浴び、スーツ姿になって身支度を調えていたところだった。「えっ、もう(指名が)きたの…」。クラブハウスで待機しながら、もっとも驚いたのが本人だった。
新生矢野阪神のドラフト戦略は、大阪桐蔭・藤原を外し、立命大・辰己も外れた。その直後のサプライズに「客観的には3位前後かなと…。まさかドラフト1位にかかるとは思っていなかった」とためらったのは、ほんの一瞬のことだ。
西宮市内の大阪ガス今津総合グラウンドで、午後6時15分から開かれた記者会見では、駆けつけたメディアに、堂々と「盗塁王と新人王を目指したいと思っています」と言ってのけた。
「関西で圧倒的なファンがいて、なおかつ小さい頃から試合を見てきた球団です。阪神ファンは世界一熱いと思っています。特定のファンはありませんが、自分の武器は足、走塁を生かしていきたい。赤星選手を一番の目標と思っています」
左打ちで、50メートル走5秒8の俊足の持ち主が、プロでの道しるべに挙げたのは、01年から5年連続で盗塁王の阪神OB赤星憲広氏だった。今夏の都市対抗は「5番・中堅」に座って、打率5割2分4厘でチームの初優勝に導き、MVPにあたる「橋戸賞」にも輝いた。
大阪ガス・橋口博一監督(51)は「足はピカイチです。よく、どうして1番じゃないんだ? といわれますが、勝負強いので、どの打順でも打てます」と太鼓判。まさに得点力不足を嘆くチームを補う“機動力野球”にはうってつけの存在といえる。
今年、甲子園での中日戦を観戦した際、同じ中堅手大島の打者がボールを捉えた瞬間の動き、打球に対する入り方をチェックしてきた。「甲子園は土の球場だし、左中間、右中間が広いので、外野の守備は大事です」。すでに自らがポジションにつくイメージも出来上がっている。
今年3月、未夢(みゆ)夫人と入籍、12月1日には神戸市内で挙式予定、まさにダブルのオメデタ。「(矢野監督の)超積極野球は僕のプレースタイルに合っています」。17年ぶり最下位でどん底のチームで、新星となって輝く覚悟だ。【寺尾博和】
◆赤星憲広の1年目 00年ドラフト4位でJR東日本から阪神入りした。1年目の01年、開幕3戦目の巨人戦に「1番・中堅」で先発デビュー。中堅の定位置を獲得し、快足ぶりを見せつけた。39盗塁でタイトルに輝き、規定打席も満たして打率2割9分2厘。新人王も受賞した。盗塁王と新人王を同時に獲得したのは、プロ野球史上初の快挙だった。
<近本光司(ちかもと・こうじ)アラカルト>
▼球歴 高校では投手兼外野手、関学大3年から外野手専念。関西学生リーグで3年春にベストナインに選ばれる。4年時はケガに泣いた。
▼経歴 1994年(平6)11月9日、兵庫県生まれ、23歳。東浦中、社高から関学大を経て、大阪ガス入社。法人住宅営業部所属。
▼プロを意識 昨春の社会人野球岡山大会で首位打者に輝いたとき。
▼大阪ガス出身 阪神入りが決まれば、能見篤史、小嶋達也以来、3人目。同社からバッテリー以外のプロ入りは創部40年目で初。
▼対戦したい投手 巨人菅野。
▼座右の銘 「毎日を大切に過ごす」。
▼趣味・特技 旅行好きで、予定を立てず1人旅も。「自分の知らない土地にいって、知らないことを知りたいから」。未夢夫人より先に帰宅することが多いため料理が得意。ドラフト前夜は、ポトフとギョーザ。
▼家族 中学時代の同級生で歯科衛生士の未夢夫人。「妻のほうが関西に残りたいと言っていたのでよかった」。
▼身体能力 50メートル走5秒8。遠投100メートル。
▼サイズ 170センチ、72キロ。左投げ左打ち。