エースの美学を追求する。故沢村栄治氏を記念し、シーズンで最も優れた先発完投型の投手に贈られる「沢村賞」の選考委員会(堀内恒夫委員長)が29日、都内で開かれ、選考基準全7項目をクリアした巨人菅野智之投手(29)が初受賞の昨季に続いて選ばれた。2年連続受賞は95、96年の斎藤雅樹(巨人)に次ぎ5人目の快挙。400勝投手の金田正一氏しか成し遂げていない「3年連続沢村賞」を全項目クリアでの達成、「20勝」を来季の目標に掲げた。

菅野はたどり着いた者にしか味わえない、唯一無二の喜びをかみしめた。「去年はとれちゃった沢村賞だと思う。今年は『狙ってとる』と公言してきた。有言実行できた今年の方が達成感が格段とある」。11年田中将大(楽天)以来となる、選考基準全7項目クリアでの受賞。文句なし、満場一致での栄冠に、白い歯がこぼれた。

是が非でも乗り越えたい壁を乗り越えた。昨季は逃した「10完投」「200イニング」を10月4日広島戦の先発最終登板で3戦連続完封で達成。先発、リリーフの分業制が進む中、イニング途中の降板はゼロ。試合終了までマウンドを守り抜く信念を貫いた。「大差での完封もあったし、いろんな意見があると思う。でも、僅差で完封する方がよっぽどやさしい。完封は僕の美学。昔の日本のいい伝統を継承していきたい」。日本のエースとして守るべきものがあると言い切った。

史上5人目の2年連続受賞の偉業を成し遂げても、満足しない理由がある。「正直肩を並べたとは思っていない。偉大な先輩たちがいるからこそ、成績や斎藤(雅樹)さんのようなエース像といった周りが求めるものに近づきたいという気持ちにさせてくれる」。名声を得た分だけ、比例して周囲の目も厳しくなる。それでも、栄光を築き上げたレジェンドの面影が「来年は『このままでいいや』と少しでもそういう気持ちが生まれたら、ユニホームを脱ぐ時」と底知れぬ成長を支える覚悟につながった。

すでに来季への道筋は見えている。「来年も沢村賞狙いに行きます。20勝、沢村賞の全項目をクリアを目標にしたい」と56~58年金田正一(国鉄)しか成し遂げていない3年連続沢村賞の大偉業を見据えた。もちろん最優先事項はチームの5年ぶりのリーグ優勝。「毎年『来年こそは』と言っている気がする。奪三振以外はチームの勝利に直結するので、特に白星にこだわりたい」。常人には想像できない目標を成し遂げた時、何ものにも代えられない至福の喜びが待っている。【桑原幹久】

◆沢村賞 故沢村栄治氏の功績をたたえ、1947年(昭22)に制定。同賞受賞者または同等の成績を挙げた投手で、現役を退いた5人を中心とする選考委員会で決定。当初はセ・リーグ投手を対象にしたが、89年から両リーグが対象。受賞者には金杯と副賞300万円が贈られる。