ソフトバンクが「SMBC日本シリーズ」第4戦で広島に連勝し、2勝1敗1分けとした。立役者は甲斐拓也捕手(25)だ。5回に二盗を試みた安部を刺し、今シリーズ広島が甲斐に対して仕掛けてきた盗塁4度をすべて阻止。大舞台でさく裂している「キャノン」が流れを引き寄せ、チームはヤフオクドームでの日本シリーズ連勝を11とし、パ・リーグチームは本拠地連勝を14に伸ばした。球団史上初の下克上から連続日本一へと導く。
この日も楽々アウトだった。2点リードの5回2死一塁。外角シンカーをつかんだ甲斐が「キャノン」を発動。二塁ベースの角に構えた遊撃手今宮のグラブにスッポリ収まり、安部の足にタッチするだけだった。
「準備していたが意識はしていなかった。走ったのは見えたので、あとは自分の送球をするだけだった」
甲斐に対し、第1戦から4度仕掛けてきた広島の足。今季セ・リーグ断然トップの95盗塁、成功率6割6分0厘の機動力を完璧に封じている。工藤監督は試合後「盗塁をあまり試みなくなっている。相手になかなかスタートを切らせない」と広島ベンチの作戦そのものも封じていると評価した。甲斐は「投手が頑張ってくれているおかげ」と共同作業の成果だと話した。
甲斐は「そんな強肩じゃないんです」といつも言う。謙遜ではない。西武炭谷を参考に、捕る瞬間に左足を1歩出すなど、素早い送球フォームと正確なコントロールに磨きをかけ続け「甲斐キャノン」と呼ばれる武器に磨き上げた。
1・90~1・95秒だと速いと言われる二塁送球。甲斐は1・8秒台で、1・71秒をたたき出したこともある。公称170センチの体もプラスだ。「僕は小さいし手足も短い。だから低い位置、最短距離で送球できる」。正捕手2年目の今季、盗塁阻止率は4割4分7厘でパ・リーグトップだ。登録名「拓也」で2軍本拠地雁の巣でプレーしていたころから、他球団の編成担当が「あの肩はドラフト1位。一級品」と口をそろえていた。ひのき舞台で真骨頂を発揮した。
バットでもみせた。3回の左前打は、今シリーズ10打席目での初ヒット。第1打席の登場曲は、川島らに勝手に変更された真心ブラザーズ「どかーん」。歌詞の「どかーんと景気よくやってみよう~」の通り、野村の外角チェンジアップを引っ張り、上林の先制2ランにつなげた。
勝ち試合の終盤はベテラン高谷と交代する。この日も7回から交代した。真の正捕手と評価されるにはもう少し。この日から、ケガ防止のため打席ではヘルメットにフェースガードをつけた。このまま2年連続日本一をつかみにいく。【石橋隆雄】
▼甲斐が4度続けて盗塁を刺した。シリーズで4連続盗塁刺の捕手は、52年広田(巨人)58年藤尾(巨人)に次いで60年ぶり3人目のタイ記録。広田は6試合で××○○○××××、藤尾は7試合で××××(○は許盗塁、×は盗塁刺)。1度も盗塁を許さずに4連続で刺したのは藤尾と甲斐だけ。また、<1>戦野間(捕手高谷)と<2>戦田中(投手のけん制で飛び出す)を加えた広島の6連続盗塁死はシリーズワースト記録。