阪神ドラフト1位「近本光司」の素顔に迫る連載の最終回は「不変の1本足打法」です。兵庫・東浦中時代の担任で野球部監督の巽史明先生(45)、社高の橋本智稔元監督(51)、関学大の竹内利行元監督(68)、関学大の1学年後輩で学生コーチだった植松弘樹さん(関学大職員=23)、そして大阪ガスの橋口博一監督(51)の5人が、1本足伝説を明かしてくれました。

      ◇      ◇

近本は中学時代から、変わらぬスタイルでやってきた。すうっと右足を腰の位置まで上げ、内側に切り込む。軸足でバランスを取り、グッと踏み込んでスイング。現代では珍しい“1本足打法”がこだわりだ。

東浦中・巽先生 逆方向に打つということができなくてね。そこで(右足を上げて)「タメを作る」ことに取り組みました。体をきちっと割っているから、振り切れる。地元のみんなが言いますよ。「何も変わってないな」って。体が筋肉質で、力強い。だから振れるんです。昔から体のバネがハンパなかった。体育のバレーボールは、ジャンプして一瞬、宙に止まっていましたからね。

屈強な体にプラス、打席で「タメ」ができることでボールを強く押し込める。170センチと小柄な体でも、バチッとボールをつぶすように打つ。俊足ではあるが“当て逃げ”はしない。

社高・橋本元監督 右方向に強く引っ張る印象が強かった。2学年後輩の(立命大の)辰己(楽天ドラフト1位)は強振が信条だった。同じ「俊足巧打」でもタイプは違います。近本は広角にシュアな打撃を見せていました。当時3年と1年ですが、辰己にはよく声を掛けていましたね。

1度ピタリと止まることで、直球にタイミングを合わせながらも変化球に対応できる。だからこそ、率を残せる打者に育った。

関学大・竹内元監督 体が前に突っ込まない。なんぼ足を上げていても、状態が残っているから変化球も打てる。スイングスピードも速いし、飛ばす力があって1発もある。(立命大の)東(DeNA)からも打っとる。前に開いても体重が残っていて、なかなか三振しないタイプでした。

天性のバランス感覚に、体幹トレーニングで鍛えた筋力で安打を量産した。

関学大・植松マネジャー あのバランス感覚は近本さんにしかできない。あの打ち方は結構変態的です(笑い)。3年春でベストナイン取った後に1度、いろいろ試して打ち方を直すことにしたんですけど。体を合理的に使えるのは、あの打ち方でした。

フォーム矯正をやめて原点回帰。自らの感覚、信じたスタイルを貫いている。タイミングを合わせて強くたたくからこそ、持ち味も生きている。

大阪ガス・橋口監督 近本が打席に立つと(相手の)野手が嫌みたいで。面白いんですよ、「近本シフト」が。足を警戒して(相手は)前を守ってるんですけど、それでも慌ててエラーもある。普通に捕って投げればアウトなのに、よく起こるんですよ。実際、それで何本もセーフになってる。引っ張れる打者だし、存在感がある。見どころがあって、ヒットを打たなくても楽しめる選手なんです。

ずっと迷いなく振り切ってきた。結果が出ない時でさえ、「変えない勇気」を手にした。進化変遷して確立した「近本スタイル」。信じるものができれば、強い。変わらないスタイルで、プロの世界でも一流を目指す。(おわり)【取材・構成=真柴健】