ロッテ今岡真訪2軍監督(44)に就任1年目の今季を聞いた。現役時は阪神で03年首位打者と05年打点王に輝き、2度の優勝に貢献した一方で、不遇も味わった。現役時代の経験をもとにして、若き指揮官が抱く哲学を2回連載でお届けする。ファーム指導で浮き彫りになったのは「無言力」「1軍力」「管理力」だ。最初に“教えない将”の若手へのアプローチに迫る。

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もし万歩計で計ったら、グラウンドの誰よりも歩数が少ないだろう。同じところに立ち続け、じっと腕組みして選手の動きに目を配る。しかも声を掛けることはほとんどない。これが今岡真訪のスタイルだ。プロ野球では、コーチが身ぶり手ぶりで選手を教えるのが日常だ。今季からロッテの2軍を指揮し“常識”とは一線を画すコーチングを行ってきた。埼玉のロッテ浦和球場で、胸中を聞いた。

「少なくとも自分が率先して教えることはない。自分が思う指導者は『必要なときに必要なことを言う』ということ。必要なときに必要なことを褒める。必要なときに必要なことを怒る。必要なときに必要なコミュニケーションを取る。そういう行動なら、ほとんど見ている人になるからね」

何よりも、見ることを重んじて導く。今岡は「今日も、ひと言も(選手に)しゃべってないやろ? 9対1くらいになるかな。9割見て、1割教える」と続けた。阪神で2年間、2軍打撃兼野手総合コーチとして鳴尾浜のグラウンドに立った日々とまったく変わらない。ロッテは今季、1軍が夏場に失速し、5位に終わった。だが、2軍では投打とも有望な若手が出番を待つ。香月、菅野、岩下、成田…。しかも、今秋ドラフトで大阪桐蔭・藤原もドラフト1位で指名した。若手を育てる2軍は未来図を描く上で重要な役割を担う。

この春は新たな才能と出会った。大阪・履正社で通算65本塁打を放った昨秋ドラフト1位の安田だ。春季キャンプ、オープン戦は1軍同行がチーム方針。プロの壁に阻まれ、2軍に降格すると今岡は告げた。「エラーしても打てなくても、何も言わないから」。まだ高卒1年目。軽率に好素材に手を加えない。

今岡 結果がどうとか、そんな心配はいらないということ。どんどん失敗していい。エラーして、どんどん凡打を打って自分で考えろと。技術的なことも、ちゃんと自分で考える能力がある。だから、我々は基本的に何も言う必要がない。

安田の育成方針は一貫しており、井口資仁監督と共有する。188センチ、95キロと肉体に恵まれた左打者を今岡は春先から「将来はロッテにとどまらず、日本を代表するバッターになる可能性がある」と評した。能力を見込む。だから、大きく育てていく。「タイミングの取り方とかは、自分で考えるもの」。感覚がモノをいう打撃技術は感性を尊重し、手取り足取り教える光景はほとんど見られない。

今岡が若い選手に伝えるのは「心のあり方」だ。あるとき、ナインの前で安田を強く叱った。失策した試合途中に敵の三塁コーチと談笑しているのが目に入ったという。「野手はエラーをしても自分がヒットやホームランを打ったら気分いいよ。でも、それじゃ大した選手にならない。投げる投手やチームメートが、安田の態度を見て、どう思う?」。投手は野手の失策で人生すら変わるのだ。19歳の心の甘さを突いた。

今岡 安田は何でも真面目に取り組むし、明るい。守備は下手だけど、そんなんええねん。エラーで怒るんじゃない。相手に話し掛けられたら話すよ。「それでも、話し掛けられるお前にスキがある」って言うのよ。自分に厳しいマインドを持っていたら、そういう態度にはならない。安田だけじゃなくて、チーム全員に当てはまること。

阪神で奮闘した現役時の自らと重ね合わせた。「自分も守備は下手やった。でも、ヘラヘラしたことはない」。失策の翌日、和気あいあいと守備練習を行う安田がいた。今岡は口酸っぱく諭す。「必ず、投手はエラーした野手の次の日の守備練習を見てる。集中した守備の姿を」。プレーよりも大切なことを伝えた。いまは違う。今岡は「もう頭に入った。シートノックでよく声を出すし、守備の意識も高い」と目を細めた。

そうやって、スラッガーの心を押し広げていく。2軍戦の打順も意図がある。3月、今岡は井口に「4番を打たせますか」と相談した。「ちょっと悩んでいるから6、7番にしようか」と返事が来た。4番に座ったのは7月中旬以降だ。今岡は「4番にした瞬間、ブワッと打った。やっぱり違う。持って生まれたもの。4番を打たせたのは実力じゃないけど、後半は本当に自分の実力で4番を打っている」と感心した。安田に王道を歩ませる。だからこそ、高いハードルを課す。

今岡は安田には冗談交じりで「ヒットばかりじゃなくて、たまにはホームラン打てよ」と声を掛ける。

今岡 そういう選手にならないといけない。「チームプレーってバント、右打ち、エンドラン、バスターだけと違うやろ」と。「0-0で9回に一発打てば勝ちのときにホームランを打ってくれる。これもチーム打撃と違うか。そういうチーム打撃が求められるのはお前ちゃうか」ってね。

安田は高卒1年目の今季1軍17試合で打率1割5分1厘、1本塁打と苦戦し、その一方、2軍ではチーム最多の432打席で打率2割7分1厘、12本塁打だった。10月のU23W杯は日本代表として打率3割9分3厘でMVPに輝くなど、着実に階段を上る。独自のアプローチで気鋭の若手と接する。厳しくも温かいまなざしで、新生ロッテの土台を築いている。(敬称略)(続く)【酒井俊作】