平成の終わりに、昭和の薫りが漂っていた。かつて森鴎外も住んだ、都心の静かな住宅街。根津神社脇のS坂を上ったところに、東大球場が鎮座する。

戦前の1937年(昭12)建造で、国の登録有形文化財。むき出しのコンクリートや壁の具合が年月を感じさせる。薄暗い通路を抜けると、突如として全面人工芝の立派なグラウンドが現れた。

小雪が舞う中、辻居新平主将(3年=栄光学園)は勢いよく、今年のスローガン「旋風」をしたためた。「赤門旋風から取りました。去年1勝もできなかった。なかなか勝つことは難しい。予想をいい意味で裏切りたいです」と意気込んだ。81年春は早大、慶大から勝ち点を挙げ優勝争いに加わった。「赤門旋風」と呼ばれた38年前の再現を狙う。

一足飛びには行かない。私学である他5大学と違い、国立で、しかも超難関。入学だけでも難しい“ハンディ”を抱える。浜田一志監督(54)は「夢は優勝です。100周年ですから大きく語るべき」と朗らかに言ったが、現実も見ている。「目標は最下位脱出。そのためには、4勝を目指さないと」と冷静だった。

昨年は計21試合で0勝20敗1分け。まずは1つ勝つことから始めないといけない。「シーズン100安打」(昨秋62安打)「東大史上初の部員100人超え」(現在85人)も掲げ、100周年と合わせた“トリプル100”が最下位脱出のカギとなる。ノックでは、今春開幕カードで対戦有力な法大のワッペンをつけた革手袋を着用し「法政の球を捕れ!」と声をからした。鍛錬から意識を植え付けている。

アップの5周走では、半周以上遅れる選手もいた。それでも、学生コーチに付き添われ、顔をしかめながら走りきった。「東大が勝つことで、6大が盛り上がる」と辻居主将。強豪ひしめく中で純粋に野球に打ち込む最高学府の面々。東大を追いかける。【古川真弥】