巨人阿部慎之助捕手(39)が、1073日ぶりに“定位置”に戻ってきた。26日、中日との練習試合(那覇)に「9番・捕手」でスタメン出場。山口俊投手(31)とバッテリーを組み、16年3月20日西武戦以来となる捕手出場を果たした。慣れ親しんだ扇の要で「冷静」に女房役を務め上げ、打者としても今季初安打をマーク。開幕スタメンとともに、究極の目標である5年ぶりのV奪回を目指す。

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キャッチャー、阿部。球場の空気が引き締まる。21世紀に入ってから聞き慣れていた場内アナウンスが、平成最後のキャンプで復活した。阿部はホームベース後方にしゃがみ、グラウンドに「冷静」と書き込んだ。「特に何も書いていない。地面いじってみました」と周囲には悟られないように自身の再出発を戒めた。

体中に染みついた動きは意図せずとも自然とよみがえる。サイン交換、捕球、守備隊形の指示、マウンドの先発山口をリードし、グラウンド上の指揮官として神経を張り巡らせて試合を進めた。「朝からいい緊張感でできた。思ったよりできたんじゃないかなと。明日の朝、無事に起きられたらいいね」。口内が乾ききるほどの緊張感はベテランの風貌で封じた。

昨秋の11月、3年ぶりの捕手復帰を自らの意思で決めた。心中は希望より不安が圧倒的に勝る。だから「仲間」にすがった。グアム自主トレでも練習パートナーを務めてもらった朝井打撃投手が、キャンプインしてからも横にいた。「本当に感謝している。あいつのサポートがなければ難しかった」。休日を返上した前日25日はブルペンで8年ぶりに朝井打撃投手との“バッテリー”を形成。この日の朝もホテルから2人で自転車に乗って球場に向かい、途中のコンビニでカフェオレを購入。たわいもない1コマが緊張感と高揚感の比重を安定させた。

捕手からの打撃も例外なくスムーズだった。2回2死、中日大野雄の外角直球を左前にはじき返した。9番での打席に「少ない打席だと思っていた、1本、どんな形でも結果が出てよかった」。2000安打以上を積み上げた強打者に原監督も「水を得たギョ(魚)のよう。打ち取られたように見えたけど抜けていく」と舌を巻いた。

捕手復帰は孤独な挑戦ではない。王座奪回のための挑戦になる。「捕手阿部というのは僕にとっていいイメージしかない」と評する原監督に対し「どうやってチームに貢献するか。それだけしか考えていない」と阿部。乾いたミットの音が沖縄の空に向かって気持ちよく響いた。【為田聡史】

▽巨人の捕手争い

西武からFA加入した炭谷が軸となるが、昨季まで正捕手を張った小林、打撃力が光る大城もキャンプで必死のアピールを続けている。4年ぶりに捕手に復帰した阿部は体力的な不安は否めないが、百戦錬磨の実績と経験値は群を抜く。近年の球界では複数の捕手を併用する起用もあるが、原監督はここまで「併用と言うよりは正捕手という考え方」との方針を示している。

この日、4回からマスクをかぶった炭谷は7回無死一塁で遠藤の二盗を阻止。指揮官は「守備力というのもね、あそこで盗塁もきちっと殺せる。ギリギリの場面でできるというのは能力というものはある」と評価。大城についても「フィールディングを含めて結果を出しました」とした。4捕手での争いについて「守備力というのはキャッチャーは非常に重要ですしね。ゲームが始まると、守っているときは監督。キャプテンシーというより監督の立場で引っ張れる人が扇の要だと思います」と理想像を説明した。

◆巨人の40代捕手

過去に相川しかいない。相川は16年7月11日に40歳を迎えたが、16年は7月11日以降に捕手での出場がなく、40代で捕手出場は17年の19試合。相川が40歳を過ぎて初めてマスクをかぶったのは40歳10カ月だった17年5月25日阪神戦で、先発出場は同年5月31日楽天戦の1試合だけ。阿部は今年の3月20日で40歳となり、40代の捕手が開幕戦に出場すれば球団史上初めてとなる。