打った瞬間、それと分かる1発だった。1点を追う7回2死一、二塁。ヤクルトのウラディミール・バレンティン外野手はカウント2-1から、巨人吉川光夫投手の143キロ高め直球を、バックスクリーン中ほどにぶち当てた。

「前の打席で同じような状況でダブルプレーだったので、何とかしようとホームランを狙っていた。チャンスで回してくれた前の打者に感謝しないとね」。勝負を決める逆転3ランに左翼スタンドは傘を開いて東京音頭の大合唱。バレンティンも二塁を回ると、プロレスラーのスタン・ハンセンのように人さし指と小指を立てて腕を突き上げ、声援に応えた。

4回にもライナーで右中間に飛び込む1発。菅野から1点しか奪えずに敗れた12日から一転、クリーンアップの山田哲、雄平とともに本塁打そろい踏みで巨人を倒した。バレンティンは「いい順位をキープするには連敗しないことが大事。今日は絶対勝とうと思っていた」とうなずいた。

今年に入り、試合前には必ず石井琢打撃コーチと屋内でミーティングするようになった。同コーチは「何を意識するかで打ち方が変わってくる。打ちたい、打ちたいじゃ上体も突っ込んでいくしバットも出ない。試合前に意見を交換して。メンタルコーディネーターですね」と説明する。本人の変化もある。今年で来日9年目。「もう日本人みたいなものだよ」。以前は態度に表れていた判定への不満もグッとこらえ、1球に集中する姿が多くなった。

3ランの直前。山田哲の右飛で二塁走者の田代が飛び出した。右翼手の亀井が二塁へ投げていれば、併殺でバレンティンに打席は回ってこなかった。「今日ホームランを打つことは運命で決まっていたように思う。だからあそこで併殺にならず、自分に回ってきたんじゃないかな」。運命について説明する姿も、どこか東洋的な雰囲気を醸し出していた。【千葉修宏】