もし、あなたの若い部下が大切な商談で大失敗をしでかしたらどうしますか。クライアントは激怒し、社内も後始末に追われ、なかなか大変な状態なのです。そこに、その部下の担当部門で魅力的な案件が新たに舞い込んできた。その若手くんに任せるのか。あるいは今回はサポートに回ってもらうのか。上司のあなたの判断に委ねられる場面になるでしょう。「ミスの処し方」はプロ野球の現場でもあちこちで見られます。

阪神矢野燿大監督の思いに触れたのは5月5日DeNA戦(甲子園)でした。ルーキー木浪が遊撃守備でミスを重ねたのは2回。先頭ソトのゴロをトンネル失策、1死一、三塁でゴロ捕球後の本塁送球がそれて野選失点、再び中井のゴロをはじく…。1イニングで2失策1野選。先制点を献上する散々なプレーでした。

1点を追う、その裏の攻撃。無死一、二塁で木浪に打席が巡ります。この時点で打率2割1分。しかも8番打者。次は投手だが、1番には打率3割超えで打撃好調の近本が控えていました。送りバントで1死二、三塁にして逆転機を作るのか。でも、まだ2回です。打たせてもいい。強攻も犠打も考えられる局面で指揮官の決断はヒッティング。これが的中し、左翼線への同点適時打、さらに逆転へとつながっていきました。

興味深かったのは試合後の会見でした。なぜ、打たせたのか。矢野監督は胸中を明かします。「あそこも送りバントをさせると、気持ちが前に向かないと思った」。守備でミス連発の直後です。大失敗してモヤモヤしているもの。指揮官は犠打で手堅く好機を広げるよりも、新人の反骨心をあおったわけです。木浪も「バントのサインかなとも思いましたけど、打てということだったので。高ぶり? それはありました」と振り返ります。たとえ、あの強攻が失敗したとしても木浪の心を動かそうとした「ミスの処方箋」のすがすがしさは消えないでしょう。

いまの世は、とかく成果を短絡的に追いがちだと感じます。だからこそ結果にとらわれず、まず、何よりも部下の傷心を推し量って前のめりにさせようとした矢野監督の姿勢に共感を覚えます。「五月病」なんて言葉をちらほら目にする季節。指揮官の熱さが伝わってくるシーンでした。ゴールデンウイークから若手のはつらつさが目立ち、上位に押し上げてきました。タイガースの好調ぶりは、こんなところにも表れているのではないかと感じます。