連続写真で注目選手を紹介する企画「解体新書」。日刊スポーツ評論家の西本聖氏(62)が、開幕から先発ローテーションに入り結果を出している広島床田寛樹投手(24)DeNA今永昇太投手(25)ソフトバンク大竹耕太郎投手(23)の若き3左腕を徹底比較する。それぞれの持ち味と気になる点は-。

    ◇    ◇    ◇

今季からローテーションを守る3左腕の投球フォームを比較、検証していきたい。この中で一番、オーソドックスで模範的な投げ方は広島の床田だろう。本格派のDeNA今永はいかにも打者が嫌がる球を投げそうなフォームをしているし、技巧派のソフトバンク大竹はタイミングの取りづらそうなフォームをしている。それぞれの特徴を見てみよう。


広島床田の投球連続写真
広島床田の投球連続写真

振りかぶって投げるのは床田だけで、体を大きく使うことで右足を上げきる(4)までゆったりし、力みがない。今永は高い位置でグラブをセットし(<1>)、そこからグラブを落とすタイミングに合わせて<2>のように右足を上げていく。ともに力まないで投げられるように工夫している。

この2人に比べ、大竹は真っすぐに立っている【1】から予備動作がなく、【2】で右足を上げきっている。シンプルで簡単そうだが、下半身の筋力とバランス感覚がないとできない。いきなり始動するため、打者はタイミングを計りにくくなる。

右足を踏み出していく(5)~(8)までの床田の下半身は、完璧な動きをしている。一方、今永と大竹は「蹴る意識」が強すぎるのか、今永は<4>~<6>、大竹は【3】~【7】までで軸足の左足が伸びきってしまっている。床田の頭の位置は滑らかに沈んでいくが、2人はガクンと落ちてからジャンプするような動きになっているのが分かるだろう。


DeNA今永の投球連続写真
DeNA今永の投球連続写真

今永はまだ肩のラインが地面と平行で捕手方向に蹴れているが、大竹は極端に左肩が落ち、上にジャンプしているような感じ。こうなると、踏み出した右足がつま先からドスンと着地してしまう。床田の(7)の右つま先と、今永の<6>、大竹の【6】を比べてほしい。理想は床田のように、かかとからジワッと踏み込めた方が軸足にしっかり体重が残り、制球もしやすくなる。

上半身の使い方も特徴がある。グラブを持つ右腕の使い方は、今永だけが低く使えている。大竹は軸足の左ひざが内側や前に折れるのが早いため、グラブが上がりすぎてしまう。一方の床田は(6)で体の正面に伸ばしてから、(7)で高く上げている。頭が突っ込まないように右腕で抑えるように使っているから、このような動きになるのだろう。


ソフトバンク大竹の投球連続写真
ソフトバンク大竹の投球連続写真

テークバックからリリースするまでの腕の振り方は、大竹が独特な使い方をしている。まずボールを持つ手を下に落としてから【6】のように左肘が背中側にまったく入っていない。こうやって上げていけると、【7】のように体がまったく開かずに高い位置でトップを作れる。【8】でもボールが後頭部の後ろに隠れている。球速が遅くとも、レベルの高いソフトバンクのローテーションに入って投げられる秘訣(ひけつ)だろう。

テークバックで気になるのは今永で、<6>のようにボールを持つ手が左肘より上がる前に、背中側にやや入りすぎている。許容範囲ではあるが、こうなると<7>のように体を開かせ、ボールを持つ手と頭の距離を取らないと、高い位置までトップをもってこれない。普通なら腕が振り遅れてしまうが、<8>ではその遅れを取り戻している。驚異的な上半身の強さで振り遅れをカバーするから、直球はスライダー回転し、打者にとって打ちにくい球になる。長所と短所が紙一重で、肩、肘の故障のリスクが伴うが、奪三振率が高く、防御率がいいのも、この「真っスラ」が武器になっているからだ。

投げている球種が違い、写っている瞬間の違いもあり、一概に比べられないが、床田の(10)は素晴らしい。右足を突っ張らせて投げる今永の<9>は、多少ヘッピリ腰になる。

腕を振り切った床田の(11)、今永の<10>、大竹の【11】では左腰が前に出ず、左足が後ろに残っている。今永の<11>と<12>がやや一塁側に傾いているが、床田(12)と大竹の【12】の立ち姿は申し分ない。

いいフォームで投げれば、それなりの球威や制球力はつく。フォームを修正していくことが、上達への近道であることは間違いない。しかし、悪いからといって勝てないとは限らないのが、野球の面白いところ。きれいなフォームであれば打者はタイミングが計りやすいし、クセ球は大きな武器になる。ブレークした3投手の今後を見ていくのも、楽しみのひとつになる。