原の勝負手に、元とび職人が持ち味のスピードで応えた。巨人の韋駄天(いだてん)増田大輝内野手(25)が、同点の8回1死一塁から4番岡本の代走で登場。けん制悪送球で二塁に進むと、三盗でチャンスを広げ、陽岱鋼の三遊間への当たり(記録は左前打)で好スタートを切って決勝のホームを踏んだ。先発菅野が7回途中3失点で降板する中、脇役の活躍で連敗阻止。日替わりヒーローの登場で、貯金を再び15とした。

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じりっ、じりっと跳びはねた。同点の8回1死二塁。二走の増田大が阪神ジョンソンのセットポジションの隙を盗み、リードを広げた。投手が左足を上げるコンマ何秒前にフライングスタート。「ジョンソンはクイックが速い時と遅い時がある。三盗はあれぐらいのタイミングじゃないと難しい」。捕手が投げる間もなく、三塁へ到達。元木三塁コーチと右拳を合わせた。陽岱鋼の三遊間のゴロにもギャンブルスタート。決勝のホームを踏みしめた。

指揮官の勝負手に応えた。中前打を放った4番岡本の代走で出場。50メートル5秒9の足で圧をかけ、一塁けん制の悪送球を誘った。かつて代走の切り札として活躍した鈴木外野守備走塁コーチばりの快走に、原監督からも「まさか1アウト三塁のシチュエーションをつくってくれるとは。見事なピンチランナーですね」と称賛された。

晴れ舞台で輝くまでに回り道もした。徳島・小松島高から近大に進学も2年で中退。野球をやめて地元に帰り、建設会社でとび職人として働いた。それでも野球への情熱は消えなかった。妻優香さんと2人の子どもを徳島に残して東京に単身赴任。17年に支配下登録をつかんだ。

先輩の思いも力にした。昨年3月、当時チームメートだった広島長野からマスコットバットを借りた。返却の電話を入れると「使っていいよ。足りなくなったら、また言ってね」とまさかの返答。プレゼントされた「CHONO 7」と記された87センチ、950グラムの1本を大事に振り込んだ。成果は数字に表れ、今季は2軍で打率3割5分8厘をマーク。持ち味の堅守と俊足に打棒も評価され、甲子園での4月19日阪神戦で1軍デビューを果たした。

ヒーローインタビューでは「家族のおかげで今の僕がいるので、少しずつ恩返しできるように頑張ります」と言葉を並べた。思いはきっと届いたはず。度胸満点の仕事人が足で白星を稼ぎ出す。【桑原幹久】

◆増田大輝(ますだ・だいき)1993年(平5)7月29日、徳島県生まれ。小松島-近大(中退)-四国IL・徳島を経て、15年育成ドラフト1位で巨人入団。17年7月に支配下登録。19年4月19日阪神戦でプロ初出場。今季推定年俸500万円。172センチ、68キロ。右投げ右打ち。