今季限りで阪神を退団する鳥谷敬内野手(38)のレギュラーシーズンラスト甲子園は、感動あふれる会心勝利となった。

仲間からのサプライズ、ファンのカーテンコール、そして奇跡のCS進出。日本シリーズで再び聖地に立つ夢が広がった。クールな印象も強かった背番号1だが、ここ数年は苦境から泥臭くはい上がる姿に共感するファンも多い。「虎のレジェンド」の生きざまとは。

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これが最後の甲子園になるかもしれない。切ない現実を知っているから、虎党は試合後「鳥谷」と叫び続けた。

「今までも、これからも、ずっと『君がヒーローだ。鳥谷敬』」

センター後方の大型スクリーンにサプライズの表示が浮かび上がる。

「せっかく呼んでもらったので…。人生において今までで一番の歓声でした」

背番号1はだいぶ照れくさそうに1人ベンチから飛び出し、大歓声に応えるとすぐさま姿を消した。

1年前の18年秋、酒を断った。酒豪で知られた男が1年間、1滴もアルコールを口にしていない。体調管理だけが理由ではない。弱りかけそうな自分を奮い立たせる意味合いもあった。

「周りから『あいつはもう終わった』と言われ続けると、知らないうちに『自分はダメなんだ』と思うようになる。もう1度、自信を取り戻したかった。お酒に限らず1つ1つ目標をクリアしていけば、自分はダメな人間じゃないと思えるようになるかなって…」

シーズン開幕。結果が出ない。出番が激減。「周りは変えられないけど自分は変えられる」。さらに自分を追い込んだ。「“スマホ断ち”も始めたわ」。夏が近づくころには連絡が来ない限り、携帯電話にも目を通さなくなった。ランニングしながらビジネス書を読むようにもなった。

「自分は走攻守のどれかが突出した選手ではない。代打になれば苦しくなるのは最初から分かっていた」

現状維持では間に合わない。時には電車内の座席でさえ、洞察力を磨く場に変えた。「あの人は今こんなことを考えているんじゃないかなって、ふとした動きから想像したりね」。遠くで立っている男性のしぐさが気になった。そっと立ち上がり、その場から離れた。しばらくして男性がその座席に向かうと、1人納得したりもした。

早朝から自宅で初動負荷トレに励み、甲子園到着後は全体練習前に計2時間走り続けた。いつしか体脂肪は4%も減って1ケタ台に。悔いなき努力を続けた結果、野球の神様は最後の最後、「逆転CS」というご褒美を用意してくれた。

レギュラーシーズン最終戦は3点リードの7回裏、先頭で代打登場。藤嶋の直球で右飛に倒れたが、地鳴りのような大歓声に帽子を取った。8回表からは64日ぶりの遊撃守備にも就き「ショートからの風景も見られて良かった」。試合後は応援歌が鳴り響く中、静かに気持ちを切り替えた。

そう。CSを乗り越え日本シリーズまで勝ち進めば、再び聖地に戻ってこれる。「頑張ります」。倒れるまで全力を尽くすと、背番号1に誓う。【佐井陽介】