ロッテからドラフト1位指名を受けた大船渡・佐々木朗希投手(17)が29日、大船渡市の同校で指名あいさつを受けた。初対面の井口監督に少し緊張しつつも、約20分ほどの会談で今後について話し合った。猪川小6年時、ZOZOマリン(当時QVCマリン)で行われた岩手沿岸被災地域の学童のための「リアスリーグ」第1回大会決勝でプレー。マウンドにも立っていた。千葉のマウンドで夢への歩みを続ける。

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6年前に始まった「リアスリーグ」の初代優勝メンバーに、佐々木の名前があった。

決勝はショートで出場し登板はなかったが、その後行われた千葉の少年野球チームとの親善試合で登板。総括プロデューサーの山田康生氏(56)は「眼鏡をかけていて、すごく繊細だなという印象でした。がつがつのスポ根の少年には見えなかったね」と振り返る。黒縁眼鏡の、どこにでもいるような少年。それでも「僕ら実行委員会の中では『あの子いいよね』となっていた」と印象に残った。

リアスリーグとは何か。広告業を営む山田氏は11年、東日本大震災後にトラック2台でうどんの炊き出しに岩手・大船渡へ向かった。これを機に毎月、同地を訪れた。1年ほどたつと学校の運動場に仮設住宅が立ち並んだ。ふと思った。「子どもたちは普段どこにいるんだろう」。そんな時、連れて行かれたのが小学校の体育館。他競技の隅でひっそりと素振りしかできない子どもたちがいた。練習ができず、野球をあきらめる子も少なくなかったという。

以前、仕事で一緒になったシドニー五輪金メダリスト高橋尚子氏の一番好きな言葉を思い出した。「夢はかなう」。思い立った山田氏は05、10年の日本一の際に仕事で関わったロッテに掛け合った。デーゲーム前の1時間30分ほどだったが、岩手の少年少女70人をグラウンドに招待。夢をあきらめかけた子どもたちは、目を輝かせ球場を駆け回った。続けてほしいという意見を受け、山田氏のプロデュースの下、地元住民が動き翌年から大会へと発展。決勝をマリンスタジアムで行うことになった。

昨年で6回を迎えた同大会。佐々木が出場した第1回パンフレットには、山田氏のコメントが掲載されている。「この中から、甲子園に進み、プロ野球選手になってまたこの球場に立つ選手が育っていくことを期待して、新たな夢を抱きます」。夢は現実になった。「『ありがとう』と言いたい。朗希くんが僕らの夢をかなえてくれた」という山田氏の目に涙があった。舞台はすでに踏んでいる。運命の糸に導かれ、佐々木が千葉に帰ってくる。【久永壮真】

◆リアスリーグ 東日本大震災で「グラウンドを失った子どもたちに夢を」をコンセプトに13年に始まった少年野球大会。岩手沿岸地域が対象で、沿岸北と南に分かれて予選トーナメントを行い、第1回決勝はQVCマリン(現ZOZOマリン)で行われた。昨年で第6回を迎えたが、ここ2年間は球場の改修工事などの影響で、決勝はZOZOマリンではなかった。