日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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有馬記念に知られざるドラマが潜んでいた。フランスNO・1、世界で5本の指に入る騎手で知られ、このほどG1・2勝馬のサートゥルナーリアに騎乗するクリストフ・スミヨンが、自らある野球人の名前をあげた。

「ムッシュ」こと、85年阪神日本一監督の吉田義男だ。本紙の対談取材の際にスミヨンは「ヨシダに野球を教えてもらった。具体的なことは覚えていないが、フランスのシャンティイにいた時だと思う」と意外な出会いを口にした。

ベルギー生まれのスミヨンは、14歳だった95年にフランス北部シャンティイの競馬学校に入学している。97年にデビュー、今年が23年目。フランスのリーディング(年間最多勝)を10度獲得。凱旋門賞2勝。特に17年は1635戦305勝、18年1053戦184勝と驚異的な勝率を誇る。

吉田が率いて日本一を遂げた阪神は、2年後の87年に最下位に転落する。失意のどん底から、心の安らぎを求めて旅したのがフランス。89年から95年にかけて、フランスナショナルチーム監督を務めて五輪を目指し、その後も毎年現地で野球の指導に当たってきた。

野球の発展途上国で指導した吉田は、タニノギムレット、ウオッカなどのオーナーで知られる谷水雄三(日本馬主協会連合会最高顧問)らとも親交が厚い。

「シャンティイはフランス屈指の競馬の街で盛んです。有名なお城があって、その中の美術館はルーブルに次ぐ絵画点数の多さを誇ります。大きな競馬場、馬の博物館もある景勝の地。野球クラブはないですが、たびたびうかがいました。スミヨンにはそこで教えたんじゃないですかな」

17年まで在仏日本人会会長の浦田良一は「日本競馬協会は、馬の育成、調教などの基礎的なこともフランス競馬会から多く学んでいます。数年前にパリの日本大使館でフランス競馬会の会長が、日本競馬界への貢献大ということで表彰されたことがあった。いずれにしても吉田さんの教え子は阪神だけでなく、世界中にいますから」と語った。

フランスで大志を抱いた野球人と騎手。ムッシュ吉田は「フランスではここからひょっとして大リーガーが、大統領がでてくるかもしれないと夢見ながら教えていました。よろしく言うといてください。勝負は勝たなあきませんで。ひと言いわせてもらうと、有馬はスミヨン、来年はタイガースですわ」と大胆に予想していた。(敬称略)