「究極のユーティリティープレーヤー」として、東京オリンピック(五輪)金メダルを目指す侍ジャパンのキーマンになりうる存在が、17日に自主トレを公開した西武の外崎修汰内野手(27)だ。

内外野を守れるだけでなく、パンチ力、走力ともに抜群。稲葉監督も深い信頼を置いている。強いチームに欠かせないユーティリティープレーヤーとは? 角度を変えながら掘り下げる。

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解説 「ユーティリティー」【utility】は「実用性、有用性、利便性、有益」などの意味。野球では、古くから複数ポジションをこなす選手を「ユーティリティープレーヤー」と呼んでいた。

日刊スポーツの記事データベースで検索すると、1990年(平2)10月13日付紙面に「近鉄は第3の外国人として、米大リーグ・フィリーズ傘下3Aスクラントンのダレル・キース・ミラー外野手(31)の獲得を12日決定した。エンゼルス、フィリーズで6シーズンの大リーグ経験があり、通算2割4分1厘、8本塁打、35打点の中距離打者。外野のほかに、捕手も一、三塁もこなせるユーティリティープレーヤーだ」とあり、90年代序盤から数多く使用されている。

かつては選手層の薄さが理由で多くのポジションを守る場合が多く、規定打席に到達した選手もいた。市民権を得たのは90年代後半からで、アイアンとウッドの中間的機能を持つゴルフの「ユーティリティークラブ(UT)」が爆発的な人気を得た時期と重なる。時を同じくして活躍し、代名詞と称された選手が日本ハム、広島、巨人でプレーした木村拓也(故人)だ。

投手以外の全ポジションをこなす上にスイッチヒッターでもあり、3球団で18年にわたってプレー。ハイライトは09年9月4日の巨人-ヤクルト戦(東京ドーム)で、3人の捕手がいなくなった延長12回、10年ぶりにマスクをかぶった。巧みなリードと正確なキャッチングで3投手を導き、無失点。引き分けに持ち込むと、ベンチから飛び出してきた原監督に抱きかかえられ「こういう生き方をしてきてよかったなと思います」との粋な言葉を残した。

木村は04年のアテネ五輪でも代表に選出され、銅メダル獲得に貢献している。登録メンバーが限られる国際試合では、ユーティリティープレーヤーは重用される。08年の北京五輪では荒木、森野の中日勢。09年WBCでは巨人亀井がメンバー入りした。繊細な動きが求められる二遊間と捕手が最難関となるため、外野手をルーツとする選手が万能性を備えることは極めてまれな傾向がある。

現役のユーティリティープレーヤーとしては、外崎の他に日本ハム近藤、楽天鈴木大、ロッテ福田秀、ソフトバンク明石らが挙がる。特に外崎はパンチ力がある上に3年連続20盗塁以上の俊足で、終盤の代走でもジョーカー役を担える。入団から積極的に登用し、従来から1歩進んだ万能型に育成した西武首脳陣の眼力は見逃せない。【宮下敬至】

◆MLBのユーティリティープレーヤー MLBでは出場選手登録の人数が少なく(昨季まで25人、今季から26人)、加えて過密日程で主力を休ませる必要があるため、複数ポジションを守れる選手が重宝される。また、ユーティリティーのおかけで打線の幅が広がり、代打起用もしやすくなるなどのメリットもある。過去の選手を見ると、91年にフィリップス(タイガース)がメジャー史上初めて同一シーズンに5つのポジションで最低10試合以上に先発した。15年のホルト(レッドソックス)は、史上初めて前半戦で7つのポジションで先発しながらオールスターに選出。カブスFAのゾブリスト、元ブルージェイズのバティスタらも、それぞれ複数のポジションを守りながらオールスターに選ばれている。近年ではエンゼルスのフレッチャー、ドジャースのテイラー、ツインズのゴンザレスらが代表格となっている。

<他競技のユーティリティープレーヤー>

◆サッカー 1974年、ドイツをW杯優勝に導いた“皇帝”フランツ・ベッケンバウアーはDFでありながら、チャンスとみれば前線に上がり得点を決めるスタイルを確立。FW、MFもできるユーティリティー性を発揮しリベロという戦術を生んだ。最近は複数ポジションが可能なことをポリバレントと表すことが多く、日本代表では長谷部誠、阿部勇樹、田中マルクス闘莉王らがいた。

◆バスケットボール 90年代を中心にNBAシカゴ・ブルズで活躍したスコッティ・ピッペンは究極のオールラウンダーとしてチームを6度の優勝に導いた。万能型のスモールフォワードで、得点、アシスト、リバウンド、スチールなどで好成績を残した。ハンドリングやパスセンスに優れ、ブルズの強みだったトライアングル・オフェンスという戦術をマイケル・ジョーダン、デニス・ロッドマンとともに機能させた。

◆バレーボール セッターの対角に位置するポジションをオポジットと呼び、中でも補助アタッカーからサブセッターまで攻守にわたってオールラウンドにプレーする選手をユニバーサルもしくはユーティリティーと呼ぶ。同じポジションで攻撃に特化した選手がスーパーエース。