ロッテ、阪神などで活躍した元投手の加藤康介氏(41)が新型コロナウイルスの感染拡大で野球の活動を制限される子どもたちに向けて4月からSNS、YouTubeで投球のイロハを実演指導している。

17年に独立リーグのBC福島で現役引退後、19年にNPO法人「B・BASIS」を発足。野球普及や小学生らの野球肘撲滅に取り組む。セットアッパーで奮闘した阪神時代の経験を生かし、野球の素晴らしさを伝えている。【取材・構成=酒井俊作】

小学生のみんな、「おうち時間」でも野球がうまくなれるよ。そんなメッセージを動画に込めるのは、11年から5年間、阪神で中継ぎとして力投した加藤だ。4月から子供向けに「正しい投球動作ドリル」を配信。投球後の片足立ち、ボール天井投げなど自宅でできるトレーニングをYouTubeやフェイスブックで分かりやすく解説している。

例えば、初回の軸足立ちドリルは入門編だ。「骨盤をしっかり立てる。足踏みしてください。膝は腰の高さまで上げよう」と呼びかけ、親に手拍子などの合図をうながす。「合図に合わせて地面をしっかり踏み込んでください。その力で反対側の足をしっかり上げるイメージを持ってください」と続け「そのときの姿勢が投球動作で一番大切なバランスになります」と説明する。わずか3分28秒でとてもシンプルな内容だ。

加藤 子どもたちは野球を外でやりたくてもできない状況。自分の経験を伝えていきたい。野球を長くやることで仲間とか、いろんな出会いもある。少しでも長く野球をやってほしい。

19年2月にNPO法人の「B・BASIS」を発足させ、神奈川・藤沢市を拠点に厚木市や鎌倉市などで活動してきた。

加藤 野球に恩返ししたい。小学生の頃、みんなとワイワイ野球できるだけで十分でした。まだ少年野球で勝利至上主義のチームもある。本来、指導者が子どもを守らないといけない。

波乱の野球人生がいまに生きている。トレード、2度の戦力外通告の末、阪神へ。転機は12年だ。元捕手でヘッドコーチだった有田修三のひと言で人生が変わった。「左バッターのインコース、どんどん攻めていいぞ! 俺が責任を持つからやってみろ」。目の前の霧が晴れた。「セオリーとしては危険だけど、僕はずっと、そこに何かヒントがあると思いながらも、できないでいた。すごくありがたい言葉。本当の意味で変われた」。同年は41試合登板で防御率0・83。翌13年は自己最多61試合で1・97の活躍。懐を突く強気のスタイルで打者を圧倒した。

加藤 それまでは「これはダメだ」と押さえつけられて自分の考えを肯定してもらえなかった。だから、いまも僕は子どものやることを「全否定」しません。否定すると、1人の子の考え方、行動力がなくなってしまうかもしれない。

だから、いま、子どもの感覚を重んじ、自主性をうながす姿勢で接する。8年前だ。中継ぎの地位を築いた頃、加藤が言っていた。

「工藤さんに言われたんです。『小さい子に分かりやすく、ちゃんと教えられるようになったら、お前、本物だぞ。自分がイメージしているものを言葉でちゃんと表現しなさい』って」

横浜(現DeNA)に在籍した頃、師事した工藤公康(現ソフトバンク監督)から教わったのだという。当時、ともに野球教室に参加し、印象的な光景がある。

加藤 工藤さんは子どもたち1人1人が、何かを得るまで教えていた。1人1人を丁寧にやると、予定の時間を2時間も3時間も押したりする。それを見ていて「いいな」と。だから、時間が許す限り、僕も教えてあげたいんですよね。

ユニホームを脱いで3年がたつ。スマートフォンの画面に映る加藤は相変わらず細身だった。もしかすると、いまもなお「野球とは…」を、追い求めているのかもしれない。(敬称略)

◆加藤康介(かとう・こうすけ)1978年(昭53)7月2日生まれ、静岡県出身。清水商-日大を経て00年ドラフト2位でロッテ入団。オリックス-横浜を経て、11年から阪神。通算320試合、29勝43敗1セーブ。16~17年はBCリーグ福島で投手兼コーチとしてプレーした。182センチ、85キロ。左投げ左打ち。

◆取材 今回は新型コロナウイルスの感染防止措置を取り、加藤康介氏、小野博道氏に電話取材を行ったもので、過去の取材も交えて構成しました。野球教室などの写真はすべてB・BASISから提供を受け、いずれも感染拡大前に撮影したものです。