#STAYHOMEの野球ファンへ-。日刊スポーツ評論家の上原浩治氏(45)のピッチング論第2回のテーマは「コントロール」です。コントロールといえば、上原氏の代名詞。制球力を高めるために欠かせないこととは-。ベテラン遊軍・小島信行記者に2つのポイントを挙げました。
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小島記者 前回(5月8日付紙面)は、投手として一番大事なのは「気持ち」であり、まずは「打たれない」と思って投げること。そして「うまくなりたい」という気持ちが強ければ苦しい練習に耐えられる、ということでしたね。そして、投手は球速ではなく、打者が速いと感じる球を投げられた方がいい。速く感じさせるためには、ボールのキレや、リリースが打者から見えにくいフォームを追求しなければいけない。こんな感じでしたね?
上原 球速だけ上げて打たれなければ、それでもいいですよ。でも、スピードには個々に限界がある。上げられない人は、工夫しなきゃいけないってこと。
小島 打者が速いと感じる真っすぐでも、ストライクを取るのが精いっぱいというレベルでは抑えられません。そこで大事なのが、コントロール。精度を上げていくには、どうすればいいのですか?
上原 まずは下半身の強化でしょう。当たり前だけど、下半身が安定しなければ、絶対にコントロールは良くならない。もっと細かく言うと、軸足の力がないとダメ。文字通り「軸」なんですから。次に、というか、下半身と同じくらい重要なんですが、体幹の強さも大事。下半身と体幹は、木で例えるなら「幹」になる部分。ここを鍛えて、下半身と上半身のバランスがうまくとれるようになればいい。技術的な部分や、指先の感覚もあるでしょうが、まずは下半身と体幹を強化しないと、コントロールは良くならないでしょう。
小島 でも、こう言っては失礼なんですが、上原さんのフォームは「野手投げ」みたいな感じじゃないですか?
上原 よく言われる(笑い)。「腕で投げてる」とか「上体投げ」って。そう言う人には「じゃあ何で俺がケガするのは下半身ばかりなんですか?」って聞きたいね。下半身を使って投げているから、そこに負担がかかってケガをするんですよ。だから走って強化する。それでも追いつかないからケガをするんですよ。
小島 最近、走り込みは必要ないって意見もありますが?
上原 個人的にそれは違うと思うけど、人によってじゃないかな。筋肉がつきにくい人は走る比重より、ウエートとかで鍛えた方がいいのかもしれない。でも、走るのはスポーツの基本。短距離みたいにガーッと走るのも、長距離をバランスよく走り続けるのも大事。走るのは全身を使うから、バランス感覚も養える。そんなのやらないでも大丈夫、という選手がいるなら、それでもいいと思うけど、プロで長い間やっている選手は、大抵は走っているんじゃないかな。
小島 それは投手に限らず、野手にも言えることですね。でも上原さんは高校時代は走るのが嫌で、投手をやりたがらなかったって聞いてますが?
上原 高校時代はプロに行こうなんて、これっぽっちも思ってなかったし、レギュラーの選手たちに「俺を甲子園に連れて行け!」っていうダメなタイプの選手だった(笑い)。ピッチャーの練習って走ってばっかで、きついじゃないですか。だから投手に転向しろって言われても、嫌だって断っていた。
小島 今からは想像できないですね。でも結局は目覚めたんですよね? 何がきっかけだったんですか?
上原 高校2年の秋は外野手でレギュラーになった。でも3年の春になると、1年生にいい選手が入ってくるでしょ。それでレギュラー落ち。試合に出たり、ベンチに入るには外野手と兼任で投手をやるしかなかった。それで先発で起用してもらったり、完封なんかもして、ある程度の結果も出た。ピッチャーの方がやれるっていう自信も出てきた。でも、うちの高校(東海大仰星、現東海大大阪仰星)にはエースに建山(義紀)がいて、ずっと控え投手だったけど。
小島 仮に同級生に建山さんがいなければ、もっと早くピッチャーをやって、有名になっていたかもしれませんね。そしてもし、もっといい外野手だったら、ピッチャーにはなっていなかったんですよね。運がいいんだか悪いんだか…、微妙ですね。でも、そのあたりの話は上原ファンなら知っていると思うので、コントロールの話に戻りましょう。下半身の強化以外に、制球力アップに欠かせないことは?
上原 投げ込み!
小島 これも必要ないという人も。メジャーではキャンプで球数を制限されるんですよね?
上原 だからメジャーでは、その前のオフ期間で投げ込んでいましたよ。
小島 巨人入団1年目のキャンプで長嶋監督が2軍に来て上原さんの投球を見ようとしたのに投げなかったこと、ありましたよね? そのイメージがあるのか、あまりブルペンで投げ込むのが好きなように思っていませんでしたが。
上原 俺ってそういうイメージを持たれているんだよなぁ。長嶋監督が来ても投げなかったのは、あくまでも自分の調整を考えてのこと。監督にアピールしても、それでケガをしたりコンディション作りが遅れたら、そっちの方がダメでしょ。みんなからはあきれられたけど(笑い)。でも投げるのは好きだったし、バッピ(打撃投手)とかでは、投手をやっていなかった高校時代から、相当投げていますよ。プロのキャンプ期間中には1000球は投げていたし。
小島 誤解を招きやすい性格をしているから、事実と異なったイメージを持たれるんでしょう(笑い)。でも、ただ漠然と投げているだけでは、制球力は良くならないでしょう?
上原 それはそう。狙ったところにいかなければ「次はもうちょっとこうやって投げてみよう」とか、考えながらやらないとダメ。そうやって投げていって、フォームを固めていくんです。それでも、その日によって同じフォームで毎日は投げられない。だから「今日の球はこうだから、こうやって投げてみよう」とか、考えてやる。そうやって引き出しを増やしていけば、実戦でもいい結果がついてくるような球が投げられる。バッピはバッターが打ちにいくから、もっといろいろなことが分かる。そうやって何球も投げて、確かめるんです。たまたま1球投げて分かることもありますけど、大抵は何球も投げて確かめないと分からない。自分のものにするためには、投げ込まなきゃ分からないんですよ。
小島 ストライクゾーンにさえ投げられれば打たれない、というピッチャー以外は必要?
上原 そうだけど力だけで抑えられる期間ってそんなに長くないでしょ。速い球を投げられない投手でも、コントロールは練習次第で良くなる可能性がある。高校で140キロを投げられなくても130キロでコーナーを突ければ大抵は抑えられる。そこにストライクが取れる変化球があれば、まず打たれないと思う。コントロールって、誰でも良くなる可能性がある。190センチ以上の身長があれば角度がつくし、そこにパワーがあればスピードも出る。でも、そういう恵まれた素質がある投手ってなかなかいないでしょ。
小島 なるほど。だから走り込みも投げ込みも、必要な投手は多いということですね。
上原 でも小学生や中学生は、まだ骨が固まってないから投げすぎはよくない。そこは気をつけてください。
◆上原氏の制球力 制球とテンポの良さが持ち味で、99年7月4日横浜戦は1時間59分で終わった。日本での通算与四球率(9イニングあたりの四球数)は1・20で、1500投球回以上の投手で歴代1位。メジャーでも通算480回2/3で78四球の与四球率1・46と、日本時代と変わらない制球力の高さを見せた。