怪人ガルベスを覚えているだろうか。1996年、長嶋巨人の「メークドラマ優勝」に貢献したバルビーノ・ガルベス投手だ。同年5月19日のヤクルト戦は5安打完封。2月の宮崎キャンプでテストを受けて入団。この年は16勝を挙げ最多勝を獲得した。98年には審判にボールを投げつけるなどトラブルも多かったが00年に退団するまで5シーズンで46勝を挙げた。

【復刻記事】

巨人の救世主、バルビーノ・ガルベス投手(32)が、長嶋監督に待望の貯金「1」をもたらした。ヤクルトを力のピッチングで圧倒して5安打完封勝利。3試合連続完投5勝目のガルベスは防御率、勝ち星、勝率など投手5冠を独占する活躍だ。堀内投手コーチが「拾い物」という年俸2000万円助っ人がチームを引っ張り、5月11勝5敗で首位中日に3ゲーム差の射程圏に入った。

ガルベスの闘争心に火がついた。2点リードの最終回。いきなり稲葉に左中間二塁打を許すと、マウンド上で怒りに満ちた顔に変わる。辻、オマリーの内角を強気にえぐり、簡単に2死を取る。最後は古田の打球を左足に当てながらも軽快にボールを拾い、ゲームセットだ。「足? 全然平気だよ。オレは勝つために来たんだ」。痛い顔ひとつせずほえるようにまくし立てた。

4月10日の初先発で黒星を喫した相手を「研究はしてきたよ。攻め方もね」と、あっさり攻略した。しかも106球の省エネ投球。序盤は初球から低めでストライクを先行させた。丁寧であり積極的だったが、中盤からついに「怪人」がキバをむいた。4回に清水の4号ソロで待望の援護。「あれがポイントだったよ。あれから攻撃的なピッチングに切り替えたんだ」。1点で十分だった。5回以降は内角をズバズバと攻め込み、9個の内野ゴロを重ねた。

年俸2000万円のテスト生が、開幕1カ月半にして巨人を変えた。1日の中日戦では内角球から乱闘を起こして退場処分を受けたが、攻め方は何一つ変わっていない。「自分のスタイルは変えない」と言い切り、内角を大胆に攻める投球で5月はオール完投の3連勝。1日の試合も5回をわずか45球の完投ペースで実質的な勝利投手。ここまで11勝5敗の「5月反攻」のうち、4勝に貢献しているのだ。

今季2度目の中4日登板に長嶋監督も一抹の不安を抱いていたが「余計な心配をしましたが、一掃してくれました。今日はガブリ寄りで行きましたね」と、ガルベスの好きな相撲にひっかけて絶賛だ。堀内投手コーチも「中7日で3失点、中4日で完封、中2日なら完全試合だな。今日は完ぺき。テスト(入団)なんて必要なかった。拾いもんだね、あいつは」とジョークも飛び出すほどだった。

ガルベス本人からの売り込みで入団テスト。そのガルベスが、5月半ばにしてリーグ投手部門の5冠を独占したのだから驚くのも無理はない。防御率、勝利数、勝率、最多完投、最多完封は、まさに巨人のエースだ。

ドミニカ共和国から米国に渡り、メジャーの夢破れ台湾プロ野球に活路を求めた。「勝つために来たんだよ」は、日本でたっぷり「強い円」を稼ぎたいとの思いが込められている。

4月に次男アンソニー君が誕生した。7月上旬には来日予定だが、家族を愛するガルベスは、マイアミの実家まで3日ほどで届く国際宅配便も頻繁に利用し、給料もほとんど使わず送金している。最高で年俸(推定2000万円)が倍増する出来高契約は、勝てば勝つほど家族のためにもなるのだ。

これで4月10日以来の貯金。長嶋監督は「まだまだ。これから福岡、広島、神宮とありますから」と、珍しく慎重なコメント。そんな長嶋監督の背中に向けて、ガルベスはお立ち台から宣言した。「中4日でも中5日でもチームが必要とするならいつでも行くよ」。優等生ばかりの巨人にあって、ガルベスの存在は大きい。

▼巨人のガルベスが2度目の完封で5勝目をマーク、チームの勝ち頭で、ハーラートップに並んだ。1976年(昭51)以降、巨人に入団した外国人投手は、昨年まで9人(87年のパセラは1軍出場なし)在籍したが、1年目に5勝以上マークしたのは76年のライト(8勝7敗)85年カムストック(8勝8敗)88年ガリクソン(14勝9敗)94年ジョーンズ(7勝2敗)の4人。この調子が続けば、ガリクソン以来の2ケタ勝利も可能だ。また外国人の最多勝利のタイトルも、セでは64年のバッキー(阪神)以後出ていないので、ガルベスに期待がかかる。

【当日のスタメン】

<巨人>

1(三)仁志

2(遊)川相

3(右)松井

4(一)落合

5(中)マック

6(左)清水

7(二)元木

8(捕)杉山

9(投)ガルベス

<ヤクルト>

1(中)飯田

2(右)稲葉

3(二)辻

4(一)オマリー

5(捕)古田

6(三)ミューレン

7(遊)土橋

8(左)佐藤

9(投)田畑

※記録、表記などは当時のもの