もうしばらくの間、無観客が続くプロ野球。ファンの熱狂にかき消されてきたグラウンドの「音」を測定し、徹底的にフォーカスしてみた。王道のホームランから、普段なら絶対に伝わらない音まで…試合前から元気な西武は、8回に木村文紀外野手(31)が起死回生の逆転満塁本塁打を放ち、ソフトバンクを豪快にうっちゃり。好調のロッテも、8回に4点を奪って逆転で首位を守り、大音量を記録した。耳を澄ませば、新しい野球の楽しみ方が見えてくる!

※測定はAndroidアプリ「デシベルX」を使用。

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ボルテージもボリュームも、山賊たちはでかかった。1点を追う8回、逆転満弾で針がマックスに振り切れた。2死満塁、打者は8番木村。「何も考えていない。きた球に対して強く振ろう」。2球目の高めの直球を捉え、バックスクリーン左横へグランドスラムを運んだ。スタンドには観客は不在。ハイタッチもできない。でもお立ち台では「ファンの方がいたらもっと気持ちいいんでしょうけど、無観客でも気持ちよかったですね」と喜んだ。

試合開始前からレッドゾーンに入っていた。三塁側、西武ベンチ上のスタンドから音量を計測すると、他球場にはない音量を次々とマーク。スタメンのアナウンスでいきなり、森が最大値の86デシベルを記録した。先発ニールの立ち上がり、鬼門の1つである柳田を空振り三振に仕留めると、源田-中村の三遊間から80デシベルの雄たけびが響き渡る。普段はもの静かな2人だが、2連敗で迎えた6連戦4戦目。落とすわけにはいかない気迫が、自然と大声に込められた。

前夜は快音が影を潜めた。自慢の山賊が相手先発バンデンハークの前に7回まで無安打。しかしニールの快投に、4番山川がバットで応える。飛距離110メートル、打撃音73デシベルの先制2号2ランで、お決まりの「どすこい!」は80デシベル。さらに3回、バックスクリーン左横への125メートル弾は73デシベル。2度目のどすこいは、もはや計測不能だった。

山賊らしく3発7点で奪い取った白星。辻監督も「大きいどころの話じゃない。今日は木村さまさまだよ」と、こちらも計測不能の賛辞を贈った。勝利を分かち合うスタンドには、誰もいない。だから、木村はイニング間に大型画面に映し出されるエールを見ていた。「僕たちも見る機会がある。ファンの声がパワーになっている。1試合を全力で、全員で勝ちにいきたい」。球場で声をからそうと、待っていてくれる人がいる。無観客でも、デシベルでは測りきれないドラマが詰まっている。【栗田成芳】

◆バットと打球音 木の材質によって音の大きさ、音色ともに異なる。大まかに分類して、音が大きい順でアッシュ、メープル、アオダモとなる。長年野球界に携わるメーカー担当者は「打球音の大きさと打者のパワー、スイングスピードは、基本的に比例する。加えて、ボールが当たったポイントが真芯に近いほど、反発音は出る」と解説。キャリアを積めば、打球音を聞いた瞬間に本塁打か否か分かるようになるという。加えて、同じ材質の木でも原産国が違えば打球音で分かるという。

◆一般的な音の大きさ 

20デシベル(無音に近い) 木の葉の擦れる音

30デシベル(非常に静か) 深夜の寝室

40デシベル(静か) 換気扇

50デシベル 空調の音

60デシベル(やかましい) 会話の音

70デシベル 掃除機

80デシベル ボウリング場

90デシベル(非常にやかましい) パチンコ店内

100デシベル 電車の通過時

110デシベル 車のクラクション

120デシベル(苦痛を伴う) 飛行機のエンジン音

180デシベル スペースシャトルの打ち上げ

 

※測定はAndroidアプリ「デシベルX」を使用。